Are you an angel? | ナノ
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A Heart for You─3rd


薫り高いスパイスで味付けしたポテトやオニオンをスタッフィングしたローストチキンを、温め直しの為斎藤がオーブンに入れた。
他に腕を振るった品々は、スモークサーモンにアスパラやブロッコリー、カラーピーマンやブラックオリーブなどをあしらった、彩り華やかな野菜中心のマリネ。
可愛らしいトマトのファルシーからはなまえの好きなアボカドやチーズが覗いている。
何が入っているのだろう、ゼリーみたいに綺麗なテリーヌもあった。
フレンチのお店で見るような目にも美しい繊細なオードブル。食べてしまうのが惜しい綺麗な料理ばかりだった。
シャンパンはモエのブリュットアンペリアルが、ワインクーラーに入って冷やされていた。





A Heart for You -3rd





なまえは絞り出し袋を使い、クリームをデコレーションして苺を沢山飾り、アラザンを散らす。最後にホワイトチョコレートのプレートをちょこんと載せれば、仕上がったクリスマスケーキの見た目は。
少し不恰好かなぁ、やっぱり。はじめさんの料理の完成度に比べると、ちょっぴり、しょぼん。
テクもセンスもいまいちだな。
でも、でもね。
エプロンのポケットに入れていたスマフォをそっと取り出してみる。今日まで時々開いては眺めた写真には自分を含め6人の笑顔が弾けている。
もうすぐ赤ちゃんが産まれる佳乃さん、探偵の彼に絶賛片想い中の舞さん、大学生の可愛らしいそよちゃん、彼とヨリを戻して幸せそうな飛鳥さん、元気いっぱい新婚さんのななおさん。
皆さん、私もやりました!
ケーキ教室で出会った5人の同志達に向かって心でガッツポーズをした。
きっと今夜は皆さんも手作りケーキを囲んで、大切な人と素敵なイブを過ごしているよね。

「こちらはもう済むが、なまえの方は出来たか」
「あ……、うん、あんまりかっこよくないけど、」
「いや、よく出来ている」

そっとスマフォをポケットに戻すと、ちょうどケーキを見て歩み寄ってきた斎藤が、なまえに視線を合わせるなり言葉を止め目を丸くした。
やがてその目元を笑わせて口元を手で覆う。

「え、どうかした?」

笑んだ斎藤の指先が、怪訝そうななまえの鼻の頭に伸びてくる。掬い取った指には生クリームがたっぷりついていた。

「ここに。なまえは本当に子供みたいだ」
「あっ、やだ! ってだから子供じゃないってば。はじめさんだって……もうっ!」

なまえが斎藤の指の根元あたりを掴んだかと思うと、それを彼の鼻先に持って行く。
自分の鼻にクリームをつけられた斎藤が面食らって一瞬フリーズした。
端整な斎藤の顔の、すっきりと通った鼻梁のてっぺんにクリームのついた様が可笑しくて、なまえは声を立てて明るく笑う。彼は思わぬ攻撃に虚を突かれていたが、やがてゆっくりとその頬に再び笑みを乗せると、自分の指先で鼻の頭から拭い取ったそれを、なまえの唇に塗りつけた。

「ん?……んっ」

今度はなまえの固まる番だった。
スローモーションで近づいて来た斎藤の唇から、赤い舌が覗きなまえの唇を舐める。近くにあるボウルの中から次のクリームを掬い取り、再びなまえの唇に載せて舐め取ると、そのまま長いキスが始まった。
暫くしてからやっと唇を少し離して、額をコツリとぶつけ斎藤が囁きかける。

「甘いな、なまえの唇は、」
「……こんなふうにふざけるの、何だかはじめさんじゃないみたい」
「ふざけてなどいない。ケーキもいいが俺にとってはなまえが一番の……」
「あ……、」
「なまえを先に味わいたい」
「ま、待って、はじめさん……、」

斎藤の手がエプロンの紐を解き、ふわりと抱き上げられその足が寝室へと向かっていく。
で、でも、これから二人でパーティでしょう? ワインクーラーも出しっぱなしだし、せっかくのお料理だって……と腕の中で困惑して見上げれば、彼の切なげな瞳はまるで仔犬のように見えた。

「駄目だろうか」

どうして、そんな目で言うの、もう。
駄目なんて言えなくなっちゃうじゃない……。はじめさんは狡い、となまえも頬を染めて目を伏せた。
照明の灯った明るいリビングやキッチンと対照的に、暗いままの寝室はまだカーテンが引かれておらず、レースごしに外灯の薄青い光が差し込んでいた。
ベッドにそっと横たえられたなまえが、覆い被さる斎藤を見上げ、ふと逸らした視線の先。窓のレースの外には。

「はじめさん、」
「どうした?」
「外、見て」

雪が舞っていた。彼の身体の下から抜けだしたなまえがベッドを降りて、窓辺に駆け寄る。レースカーテンを開け放って窓の外を眺めた。
温かい室内と外気温との差があるせいで濡れた窓ガラスの向こうには、しっかりとした牡丹雪が降り始めていた。

「ホワイトクリスマスだ」
「そうだな」

いつの間にか傍まで来ていた斎藤がなまえを背中から柔らかく包んだ。お腹のあたりに回された温かい両手に自分の手を重ねれば、なまえの髪に顔を埋めた斎藤が「クリスマスプレゼントをくれないか?」と掠れた声で請う。
え……、と一瞬クローゼットの扉に目を走らせたなまえの身体のラインを、ゆっくりと撫で上げた彼の右手が細い顎を捉えて振り向かせ、熱い唇に塞がれた。
昨日からこうして何度キスをしただろう。
何だかずーっとキスばっかりしている気がする。
左手は下へと降りていき短いスカートから伸びた太腿を撫で始めた。

「は、はじめ……さ、ちょ、と、……待って、」
「待てぬ」

狼狽えて逃れた唇は再び捉われ、吸い付くような肌を滑る手のひらが、下からワンピースの中へと滑り入り這い上っていく。
身体の向きを変えられて向かい合わせになると、蒼い瞳にはさっき確かにいた筈のいたいけな仔犬は跡形もなく消え失せて、代わりに情欲の焔を燃やした妖艶な獣がそこにいた。

「このような服で、俺を煽るなまえが悪い」

器用な手が真っ赤なワンピースをするりと取り去ってしまうと、窓からの蒼い光を逆光に受けたなまえの肌を斎藤の唇が滑っていく。



目覚めたとき夜はまだ明け切ってはいなかった。レースのカーテンも開け放したままの素通しの窓の外は、雪が降り続いている。これは間違いなくホワイトクリスマスになりそうだ。
ベッドから降りてそっとクローゼットを開き、彼の瞳の色と同じ濃いブルーの包装紙に紺色のリボンのかかったプレゼントの包みを取り出してくる。
まだ眠っている彼の寝顔を飽かず眺め、いつ見ても綺麗だなと、思わず唇を寄せようとした。ふいに瞼を開けた斎藤が、至近距離にいるなまえを悪戯な目で見つめ微笑む。

「今、何をしようとした?」
「な、何でもないっ。起きてたの……、あ、それより、これっ、サンタさんから!」

ドキリとしてパッと身を反らせ、手にしたラッピングを彼のTシャツの胸に押し付けた。
思いがけないプレゼントの包みを、心底驚いたような顔で受け取った斎藤が身体を起こし、暫くそれを見つめてからなまえに視線を向ける。

「俺に?」
「うん。開けてみて」

彼の指が丁寧に包装を解いていくと、ブルーのラッピングペーパーの中からなまえの自信作(?)が現れた。
手に取った白いマフラーを斎藤は穴が開くほど見つめる。
それはなまえ本人の目からも、やはり編み目がバラバラで、よく見れば両端の巾が合ってない。恥ずかしくなって慌てて言い訳をしてしまう。

「マフラーなんだけど、初めてであまりうまく編めなくて……」
「なまえが、これを……、」

彼女の言葉などまるで耳に入っていないかのように、上擦った声を漏らした斎藤は、柔らかな毛糸に顔を深く埋めて目を閉じた。予想していなかったなまえの心のこもったプレゼントに、感無量でどう反応していいか解らない。

「あの、下手くそでごめん、ね?」
「一生、大切に使う」
「そんな、大袈裟な、」

彼にとっては決して大袈裟などでなく、信じられない程の喜びに震えているのだが、なまえからするとその反応が逆に気恥ずかしくて仕方がなかった。でもこんなに喜んでくれるなんて、やっぱり頑張って編んでよかった。
なまえが斎藤の手からそっと取ったマフラーを彼の首にかければ、切れ長の目の縁を染めて嬉しげに笑う。そこでふと思い出したように、斎藤はベッドサイドへ眼を向けた。

「なまえにもサンタクロースが来ているようだ。その抽斗の中を、」

白いマフラーに鼻まで埋めたままの斎藤がドレッサーの抽斗を指さし、中を見れば紺色のラピスラズリの箱の隣に、赤い包装紙と金色のリボンのかかった、同じ大きさの小さなプレゼントが入っていた。

「わ、嬉しい。開けていい?」
「気に入るとよいが、」

照れたような彼の声に、ドキドキしながらリボンを解き包装紙を開いていけば、中から出てきたのは白い箱。蓋を取れば中にワイン色のベルベッドの小箱が収まっていた。
息を飲んで見つめていると、スッと伸びてきた斎藤の手がベルベッドの蓋を開ける。

「なまえを想って選んだ」

それは全周にグルリとダイヤモンドが入った、細くて華奢なとても上品なリングだった。途切れることなく嵌め込まれたダイヤが永遠を意味すると言うエタニティリングだ。
斎藤がなまえの左手を取りその薬指にそっと指環を嵌める。
「マリッジリングと重ねて、派手になり過ぎないものをと、」言いかけて顔を赤らめ、再び首元の白いマフラーに鼻先まで埋めてしまった斎藤に、感極まって抱きついた。受け止めたなまえを斎藤が愛おしげに力いっぱい抱き締め返す。

「永遠を誓うと言う意味で贈るのだが、それでもいいか」
「う……ん……っ」
「結婚するという意味だが、解っているか」
「うぅ……っ、」
「すぐにでなくともいい。だが、ご両親にも認めて欲しい。いつかお前が斎藤なまえとなることを」

涙が後から溢れてきて、もう言葉にはならない嗚咽を漏らし、斎藤にかじりついてその首筋を濡らしながら、なまえは何度も何度もコクコクと頷いた。
斎藤もまた、この上ない幸福感に包まれて、愛しい恋人の身体を抱き締め続けた。

ずっと、愛している。



クリスマスの食事を楽しむことが出来たのは、ほとんど明け方に近くなってからだった。寝起きの二人では、お洒落なクリスマスディナーと言う雰囲気でもなく。
それでも窓の外はふかふかの新雪がホワイトクリスマスを演出している。
互いにしっかりと愛情の確認をし合い、夜明けの薄明かりの中で小さなツリーの仄かな光と、斎藤の料理になまえのケーキを挟んで「メリークリスマス」と微笑み合った二人にとっては、最高に幸せなクリスマスとなった。
そしてなまえの渾身のジェノワーズは、試食のしすぎで完全に食傷気味の彼女の分まで、本来甘いものがあまり得意ではない斎藤の腹に収まる結果となる。





――Forever in happiness!
…and Merry Christmas!






そして後日談。
クリスマスの朝以降、外出する斎藤の首には常に白いマフラーが巻かれていた。一日たりとも違わずに。
それは愛して止まないなまえが編んでくれた、限りない想いの詰まった、この世に二つとないマフラーである。
やがて人々が春の訪れに浮足立ってコートを脱ぎ捨て、春物を身に纏う頃にも彼の首にはそのマフラーが巻かれていた。
なまえがやんわりと言っても手放そうとしない。
見かねた彼女の懇願によって、彼がやっとマフラーを外してくれたのは、桜の花も散り果てて葉桜も終わり、新緑になろうと言う頃だったとか。
彼は次の冬の為に、毛糸専用洗剤アク●ンで丁寧に洗い、名残惜しんで涙目になりながら、大切に収納したということである。


A Heart for You〜happy end!!

2013.12.20〜12.26
※『天使と聖夜を』とリンクしています(高校卒業年齢以上のお嬢様のみmain頁よりBehind the scene*にてパスを入力の上お進みください)

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