どんな君でも〜 | ナノ



「ポッ〇ーの日か……」


と、紗也を溺愛して止まない変態…基、九番隊隊長権限代行が呟くのを、幸か不幸か目撃してしまった阿散井恋次です……。


ポッ〇ーっつったらアレだよな。何か細長ぇ棒にチョコだの何だのが付いた只の菓子だよな。

嫌な予感はヒシヒシと漂って来やがるが、その理由までが解らねぇ…っ

単に紗也に食わせるだけなら止めねぇが……


チラリと視線を向けた紗也は、ふんふんと楽しそうに押印をしてやがる……


ハロウィンも知らねぇヤツが、ポッ〇ーの日を知ってる訳がねぇっ!


ダメだ……
気になり出したら止まらねぇ。


隊長ぉおおおおぅっ

うむ(行くがよい)



俺は再び朽木隊長とアイコンタクトを完了し、直ちに現世へと向かう事にした。







ポッ〇ーの日とか言うヤツは、現世の記念日でも何でも無ぇ、只のコジツケに近いお菓子な日だっつー事らしい。


「某菓子メーカーの販売戦略だろ」

「ポポポ、ポッ〇ーの威力を莫迦にしちゃいけませんー」

「威力って、そんな凄ぇのかっ」

「馬鹿の言う事は、話半分で聞き流すといい」

「酷っ!」


あーでも無い、こーでも無いと、纏まりの欠片も無ぇ話を要約すると。


「結局、ポッ〇ー買って食って終わりって事か?」

「凄ぇ簡略化されたな」

「じゃあ手前ぇがやれよ」

「違いますー。ポッ〇ーによって愛が芽生える日なんです〜」

「愛っ!?」


愛が芽生えるって何だよ。

じゃあ


「夫婦だったら問題無ぇのか?」





口々に問題無ぇと太鼓判を押された俺は、大量のポッ〇ーを手土産に尸魂界へと戻って来た。

何だか色々と気疲れはしたが、疑問が解消されて気分もスッキリ落ち着いた。

ルキアから『美味でした』と知らされた朽木隊長も、ポッ〇ーを手に帰宅されて行ったし、めでたしめでたしだ。


「こんなに沢山どうなさったんですか?」

「いや、現世に行った序でに浦原さんトコに寄ったらよ。何か土産にっつって持たされた」


持ってっていいぞと言ってやれば、いいんですかって目をキラキラさせた紗也が、嬉しそうに苺のやらチョコのやらを選んでいた。


「帰ったら修兵と一緒に食べますね」


ニコーッて感じの笑顔で帰って行く紗也を見送った俺は、今日は疲れたが、良い事したなぁと伸びをした。





「はよっ…す、紗也…?」

「おはようございます…」


何か……、また紗也が、変だぞ。


「あー…、紗也。昨日のポッ…」


今っ!明らかに動揺したよなっ!!!


「紗也……?」

「……あ、あの。ポッ〇ーは、暫く見たくない、と言いますか、名前も聴きたくないかな、と…」


何が遭った、紗也――――っ!!!


ヤベぇ……。もう少しまともな奴等から情報を得るべきだった。

ほら……、あのっ!小っちぇえニコニコした、一言も話さなかったヤツとかっ!!!


気力も何も残って無ぇくらい疲れ果てた紗也の後ろ姿に、愉しそうにポッ〇ーを持たせて来た浦原さんを恨みつつ。


絶対ぇ、解ってて渡しただろあの下駄帽子っ!!!


俺は自分の人選ミスを果てしなく呪った……。







「昼飯奢ってやる」


普段なら危険を察知して、絶対ぇ近寄らねぇ矢鱈に機嫌の好い檜佐木さんに付いて来たのは、紗也の憔悴の理由が知りたかったからで……


「先輩」

「あ?」

「昨日、紗也が持って帰った菓子の事なんすけど」

「ああ、あれな。愉しかったぞ」

「…………は?」


愉しかった???
美味かったじゃなくて?


訳解んねぇが、これだけは訊いちゃダメだと警戒音が鳴り響くのに、どうしても俺は好奇心が止められねぇ……っ


「紗也に、何したんすか…?」

「普通に食わせて貰っただけだぞ?」


食わせてもやったけど。


………本当にそれだけか?
そんなんで紗也があんなんなるのか?


突っ込みてぇ処は山程有るが、この夫婦には深く踏み入っちゃなんねぇとの教訓も有る。


平然と答えて飯を食う檜佐木さんは至って普通で……


「なら、いいんすけど…」


俺は気付かなかった。


檜佐木さんの言う普通が、俺の認識と次元が全く異なる事に……。



ポッ〇ーは奥が深い


俺がその真理を知るのは、
まだまだ先の事だった。





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