捌 「ポッ〇ーの日か……」 と、紗也を溺愛して止まない変態…基、九番隊隊長権限代行が呟くのを、幸か不幸か目撃してしまった阿散井恋次です……。 ポッ〇ーっつったらアレだよな。何か細長ぇ棒にチョコだの何だのが付いた只の菓子だよな。 嫌な予感はヒシヒシと漂って来やがるが、その理由までが解らねぇ…っ 単に紗也に食わせるだけなら止めねぇが…… チラリと視線を向けた紗也は、ふんふんと楽しそうに押印をしてやがる…… ハロウィンも知らねぇヤツが、ポッ〇ーの日を知ってる訳がねぇっ! ダメだ…… 気になり出したら止まらねぇ。 隊長ぉおおおおぅっ うむ(行くがよい) 俺は再び朽木隊長とアイコンタクトを完了し、直ちに現世へと向かう事にした。 ポッ〇ーの日とか言うヤツは、現世の記念日でも何でも無ぇ、只のコジツケに近いお菓子な日だっつー事らしい。 「某菓子メーカーの販売戦略だろ」 「ポポポ、ポッ〇ーの威力を莫迦にしちゃいけませんー」 「威力って、そんな凄ぇのかっ」 「馬鹿の言う事は、話半分で聞き流すといい」 「酷っ!」 あーでも無い、こーでも無いと、纏まりの欠片も無ぇ話を要約すると。 「結局、ポッ〇ー買って食って終わりって事か?」 「凄ぇ簡略化されたな」 「じゃあ手前ぇがやれよ」 「違いますー。ポッ〇ーによって愛が芽生える日なんです〜」 「愛っ!?」 愛が芽生えるって何だよ。 じゃあ 「夫婦だったら問題無ぇのか?」 口々に問題無ぇと太鼓判を押された俺は、大量のポッ〇ーを手土産に尸魂界へと戻って来た。 何だか色々と気疲れはしたが、疑問が解消されて気分もスッキリ落ち着いた。 ルキアから『美味でした』と知らされた朽木隊長も、ポッ〇ーを手に帰宅されて行ったし、めでたしめでたしだ。 「こんなに沢山どうなさったんですか?」 「いや、現世に行った序でに浦原さんトコに寄ったらよ。何か土産にっつって持たされた」 持ってっていいぞと言ってやれば、いいんですかって目をキラキラさせた紗也が、嬉しそうに苺のやらチョコのやらを選んでいた。 「帰ったら修兵と一緒に食べますね」 ニコーッて感じの笑顔で帰って行く紗也を見送った俺は、今日は疲れたが、良い事したなぁと伸びをした。 「はよっ…す、紗也…?」 「おはようございます…」 何か……、また紗也が、変だぞ。 「あー…、紗也。昨日のポッ…」 今っ!明らかに動揺したよなっ!!! 「紗也……?」 「……あ、あの。ポッ〇ーは、暫く見たくない、と言いますか、名前も聴きたくないかな、と…」 何が遭った、紗也――――っ!!! ヤベぇ……。もう少しまともな奴等から情報を得るべきだった。 ほら……、あのっ!小っちぇえニコニコした、一言も話さなかったヤツとかっ!!! 気力も何も残って無ぇくらい疲れ果てた紗也の後ろ姿に、愉しそうにポッ〇ーを持たせて来た浦原さんを恨みつつ。 絶対ぇ、解ってて渡しただろあの下駄帽子っ!!! 俺は自分の人選ミスを果てしなく呪った……。 「昼飯奢ってやる」 普段なら危険を察知して、絶対ぇ近寄らねぇ矢鱈に機嫌の好い檜佐木さんに付いて来たのは、紗也の憔悴の理由が知りたかったからで…… 「先輩」 「あ?」 「昨日、紗也が持って帰った菓子の事なんすけど」 「ああ、あれな。愉しかったぞ」 「…………は?」 愉しかった??? 美味かったじゃなくて? 訳解んねぇが、これだけは訊いちゃダメだと警戒音が鳴り響くのに、どうしても俺は好奇心が止められねぇ……っ 「紗也に、何したんすか…?」 「普通に食わせて貰っただけだぞ?」 食わせてもやったけど。 ………本当にそれだけか? そんなんで紗也があんなんなるのか? 突っ込みてぇ処は山程有るが、この夫婦には深く踏み入っちゃなんねぇとの教訓も有る。 平然と答えて飯を食う檜佐木さんは至って普通で…… 「なら、いいんすけど…」 俺は気付かなかった。 檜佐木さんの言う普通が、俺の認識と次元が全く異なる事に……。 ポッ〇ーは奥が深い 俺がその真理を知るのは、 まだまだ先の事だった。 |