漆薄闇の中、腕の中で眠る紗也に口付けを降とした。 其のまま、羽のように優しく口唇を這わせて、柔らかな頬を首筋まで辿って行く。 んっ……と身動いだ紗也が、「修兵」と呟いてくれた事が嬉しかったとかどうなんだと独り悶えながら、頬に掛かる髪を梳いてやる。 渇望して止まなかった紗也が腕の中にいる。 まだまだ全てを解ってはやれないままで、全てを預けてくれた訳でもない。 其れでも、紗也が俺を受け入れた。 好きだと…… 「修兵が、好き……」 そう云ってくれた事がただ嬉しかった。 止めどなく涙を溢れさす紗也の、其の哀しみを直ぐに取り去る事は難しくても、一緒に向き合ってやれたらいいと思う。 紗也が其れを、他でもない俺に望んでくれたら良いと……。 「紗也?」 「…………」 目を覚ましたらしい紗也に目を向ければ、微睡んだまま、ゆっくりと視線を回らせていた。 そうして…… 「修、兵……?」 其の瞳で俺を捉えると、幸せそうに微笑んで胸に顔を埋め、た……。 ヤバい……。 嬉し過ぎて死ぬかも知れねぇ。の前に、部分的にも色々ヤバいかも知れねぇ……。 「紗也……」 「………も、厭だ」 おい―――……っ!!! ヤバい。 胸が、熱くなる…… 密着する紗也の躯に喉が音を立てる。 寝惚けていると解っていて、甘える仕草に熱が溜まって行く。 覚醒し切らない紗也の力無い抵抗が、更にと俺を煽って行った。 「紗也……」 声が、掠れる……。 ボロボロに泣いて、俺に抱かれて。 先までの初めての行為に疲れ果てて居るのは間違いない……。 其れでも、 「まだ足りねぇ」 紗也が足りない。 全然、足りやしないんだ……。 一瞬で情欲に濡れた声音で囁いて、もう一度と白い首筋に顔を埋めれば、少しだけ力の戻った瞳が俺を映した。 「…っ……」 「……紗也…」 「修、兵……?……っ」 悪ぃ……。 どうしたって止まれそうにない。 半ば無理矢理、結局抑えの利かない熱を押し付けて覚醒を促す俺を、躊躇いながらも拒絶はしないでくれる紗也に内心で謝った。 「紗也……?」 「………………」 「紗……」 「……もう、無、理…………」 摺り寄るように腕の中に収まった紗也の、再び聴こえた寝息に深い息を吐く。 「……ごめんな」 もうすっかり寝入って返事の無い紗也の瞳に、もう一度と口唇を寄せる。 其れにキュッと寄った眉根が可愛くて、思わず笑みが溢れた。 本当にヤバい……。 こんな想いは知らなかった。 こんな、抱き締めるだけで苦しくなるような。 泣きたくなるような……。 『切ない』 なんて感情が、俺の中に在るなんて思いもしなかった……。 紗也の何もかもが愛しい。 紗也しか欲しくない。 愛してる――… なんて……。 「今度、絶対ぇ起きてる時に言ってやる」 間違いなく、可愛い顔を真っ赤にして狼狽える。 そんな紗也が簡単に想像出来て、弛む顔を誰に見られる訳でも無ぇのに左手で覆った。 「おやすみ……」 捕まえた、やっと此の手に捕らえた紗也を、閉じ込めるように腕に収めた。 きっと、俺はもう二度と紗也を放してはやれないと心底思う。 「捕まえた」 もう、絶対に放さない――… 此の時、俺は、紗也の全てを手にした気で居た。 此の幸せが、 永遠に続くものと信じていた――… |