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  07


「悪ぃけど、俺はまだ四宮紗也が好きなんだよ」


俺が一人とみるや途端に寄って来ては、好きだの何だの云いやがる女共に溜め息が出た。

其の何れにもに、紗也には迷惑なだけだと解っていて同じ台詞を吐き続ける。

俺も大概だなと自嘲が洩れた。


情も何も無く言い放った後の悲しげな表情が、少しだけ紗也に重なって見えては、またあの日の紗也を思い出して胸が痛んだ。

もう一度 紗也を腕に抱く。

そんな術が有るのなら、今なら何だって出来ると思えるのに……。


「会いてぇ……」


あれから紗也には会えないままで、姿を見る事さえ叶わないまま。
想いを伝える術も見出せずに、ただ過ぎて行く時間に焦れた。

俺の悪足掻きのような無理矢理の告白は、きっと紗也の耳にも届いているはずで。出来るなら文句でも怒りの感情でも、何だって良いから紗也の声が聴きたいと願う。


紗也の中では、疾っくに終わっていた事……


だからだろう、あの日の紗也が俺に多くを告げてくれる事は無かった。
俺の知らない間に全てが終わって居たんだと気付いた時の、後悔なんてそんな生易しいもんじゃねぇ、震え上がる程の悔恨。
あれだけ傷付けて、一人中傷の矢面に立たせて平気な面をしておきながらと誰かが云った、其れが、俺が何も知らずに居た間の紗也の現実だ。

もしかすると、此の俺の身勝手な言動のせいで、また良からぬ奴等に何かを言われけちまってるんじゃねぇかと、直ぐに駆け出したい衝動に駆られては……

だったら止めてやれよと何かが叫ぶ。

何ヶ月も放置出来るヤツが、今更どの面下げて会いてぇとか言えんだよと、許されない、そんな資格も無い自分に歯噛みした。


「……苦情なら、本人からしか受け付けて無ぇぞ」


不躾なノックの後に、覗かせた見知った顔に息を吐き出した。


「別に、諦め悪ぃなって言ってやろうかと思っただけっすよ」


言ったところで止める気無ぇんすよねと、言いながら入室して来る阿散井は、押し黙っては肯定を示す俺に呆れ顔を見せた。


「本当 しぶてぇ」

「つーか、お前 怒ってたんじゃねぇのかよ」


く と笑う顔に、以前と変わらねぇ阿散井が見え隠れして訝しく訊ねる。

もうずっと、阿散井はビリビリとした雰囲気を纏っては、俺や乱菊さんからの接触を断っていた。
戒厳令でも敷かれちまったかのような六番隊にして阿散井のあの状態。

唯一に近い接点までを失くして、二度と紗也の名すら聴けねぇんじゃねぇかと本気で思った程……。


「いや……、そんな事より紗也はっ……」

「元気っすよ」

「っ………」


今は…… と続いた願っていたはずの阿散井の言葉に、喜ぶ事の出来ない自分に気付いて舌打った。

あんなに気を揉んでおきながら。

紗也にもまだ……と、何処か望んで居たらしい手前ぇに呆れた。


「分かっ……」

「会いたいっすか?」

「っ、ンなのっ」

「俺は止めた方が良いと思いますよ」


当たり前だと言おうとする俺を遮る阿散井は、


「もしもやり直す事が出来たって上手く行くとは思えねぇ」


一度付いた傷は消えねぇと、何処か淡々と感情の読めねぇ口調で傷を抉って来る。


きっと理性と感情は別物で。

次は小っせぇ事でも不安に繋がる。
其れを口に出来ないまま、紗也は信じられない自分が嫌になる。


其れは……、そう、なのかも知れない。けれど……っ


そんな事には絶対にならない。


「今度泣かせたら……」

「泣かせねぇよっ!!!」

「………………」


煩ぇよ……。

二度と不安にさせるつもりなんてねぇって……。

あんな……



私は大丈夫だから。

行って良いよ――…




悲しい言葉を、二度と言わせるつもりは無ぇんだって……

言ってんじゃねぇか……。






「………………」

「…………本当、」


しぶてぇっすね。


睨み合うに近い状態で向き合う俺に溜め息を吐いて、やれやれと言った体で阿散井が苦笑する。


「其処まで言うなら……、どうぞ」

「手前ぇ……」


七時に紗也を此処に呼んでるんでと手渡された書類の束、に載せられた走り書きのようなメモ。


「ウチ(六番隊)からのちょっとした意趣返しだとでも思っといて下さい」


って、此の野郎……。


七時まで後二時間も無ぇじゃねぇかよと口元が引く攣いた。







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