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  06


「アンタまで顔色悪くしてどうすんのよ」

「乱菊さん……」


ちゃんと食べてるの?と顔を顰められて苦笑う。


「食っては、居るんすけどね」


最低限は、と内心で付け足して、「なら良いけど」と言う心配げな言葉には曖昧に返した。


傍に在った時は気にもしなかったくせによと本当に嘲笑えるが、失くした瞬間、空虚感が襲い来るってんだから相当に呆れる。


其れで物も食えねぇ程にヤられるって、どれだけ依存してたんだよ……


紗也が居たから、俺は安心して好きな事をやれて居たんだって、もっと早くに気付けて居たなら……。

何であの時にと、悔やんでも悔やみ切れねぇが、どうして逆に置き換えて考えられなかったのかと、押し寄せるのは後悔の念ばかりだ。


『暫くは会えねぇから』


紗也にもし、同じ事を言われたら、間違いなく心変わりを疑って居ただろう。


『今は乱菊さんに付いていてやりたい……』


其れは、逆を返せば、お前の為に使う時間は無ぇんだと宣告したに等しい。


『いつまで……』


あの日の、不安そうな瞳をした紗也を思うだけで、こんなにもギリギリと胸が痛むのに……。

そんな紗也に俺が返した一言は、


『解った……』


全てを決めさせるのに十分だったんだろう。


「本当、酷ぇ……」

「修兵?」


俺の絞り出すかのような言葉に訝しげに窺って来る乱菊さんに眉を寄せて見せた。


「俺はいつからか、紗也を大事にしようとも思っていなかったんだなって。大事なんだって、何で忘れちまうんだろうなって……」


もしも其れを、誰もが失くしてからしか気付けねぇんだとしたら。

失くして、其れに気付いてしまった俺は、どうやって此の喪失感と向き合って行けば良いのかと……。


「今度は絶対」


もしも、もう一度 紗也が信じてくれるなら。


二度と間違えたりなんかしねぇのに……


「修兵?」

「あ、いや。其れより、紗也は……」

「………悪いわね」

「そう……、すか」


取り付く島が無かったと言う乱菊さんには、紗也の様子見を頼んでいた。


あの日の紗也は、見ていて痛々しい程に顔色が悪かったから……。

せめて、今の様子が知りたかった。

何か悪い病気なんじゃねぇよなと気をもんで、辛そうな表情を思い出しては胃が音を立てて苛む。


会いたい。
顔が見たい。
声が、聴きたい。


無償に与えられていたはずのモノを、そうとは気付かねぇままに手放して失ってしまったら。


もう何かを望む事さえ、難しいんだろうか……。







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