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 17


駆けて行く。


何だか泣き出しそうな顔をした修兵が、必死になって走っている姿が目に浮かんだ。


本当に莫迦みたいだ……


其れは私の願望だ。


『莫迦だなぁ、修兵は……』


そんな風に言っては、いつも優し過ぎる修兵に苦笑して来たけれど、本当に莫迦だったのは私みたいだと自嘲した。


修兵が、私を気にする事はもう無い。

修兵はもう、私の為に走ったりしない。
今更、必死になる理由も無い。


私はもう、修兵の大事なモノじゃないんだから……。






「顔、恐いですよ。阿散井副隊長」

「俺は冗談言ってる訳じゃねぇんだけどな」

「私も……、冗談じゃないですよ……」


何を言っても、そんな風に返しては微笑む私に寄った皺。

ふ――…っと溜め息を吐いた阿散井副隊長が、無言で私の手を引いた。


されるがままに胸に顔を埋めれば、其の瞬間に空気が揺れて瞬歩で飛ばれたのが解った。






「後悔するなよ」

「……しませんよ」


連れられたのは、阿散井副隊長の部屋の寝台の上。
此処まで来ておいて、そんな事を言う阿散井副隊長に苦笑する。


部屋に着いて直ぐに、掻き抱くように抱き締められて口付けられた。

何度も何度も、深く、浅く。貪るように続けられた其れ。

大きな掌で包み込むように捕らえて、愛しむように触れて来たと言うのに……。


「優しくしないで良いですから……」


未だ私を気遣う阿散井副隊長に苦笑して、其れだけを告げて瞳を閉じた。

いっそ、乱暴にしてくれたらいい。


今はもう、何も考えたく無かった。





もう忘れたいと言った私に、だったら俺に抱かれてみるかと言ったのは阿散井副隊長だった。

驚いて顔を上げた私を捉える瞳はふざけてなんか居なくて……


『…………阿散井副隊長、勃っ、ムぐっ』


阿散井副隊長は私なんかを抱いても良いのかと訊いたつもりだった、んだけれど……。

上手く伝わら無かったらしいと、刻まれた深い眉間の皺で知った。


『ホントに、お前は……』


少しだけ蟀谷をヒク付かせた阿散井副隊長の口角が上がる。


『証明してやる』


近付く口唇が『明日、起き上がれると思うなよ』と耳元で囁いて、


『阿散井副隊……っ………』


ツ――… と舌先が項を辿った。


少しだけ冷たい口唇と温かな滑りにゾワリと粟立つ肌が違和感を叫んだけれど、今の私には一人で立つ事さえ難しくて……


今日だけ……


聴こえない振りで瞳を閉ざした。







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