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  02


『その……、一回で良いから話してみてぇって……』

『一回で良いのかよ』

『違ぇっ!!!』

『だってよ』


修兵に、完全に遊ばれている阿散井副隊長は何だか凄く可愛くて。

私は、私なんかにと恐縮するのも何処かへ飛んで、大きい身体を小さくして真っ赤になっている阿散井副隊長をただじっと見詰めていた。

そうしたら、もう勘弁して下さいと言って阿散井副隊長が机に突っ伏すようにして顔を隠すから、無意識だった私は慌てて目を逸らして謝ったんだ。


『ごめんなさ……』

『いやっ 全然悪くなんてねぇしっ!』

『『………………』』





結局、私はあの日が原因と言うか、切っ掛けと言うか。


「恋次君を好きになっちゃったんだよね……」


あれから三人だったり二人だったり、乱菊さん達との宴会だったり。

恋次君とは一緒に居る機会がどんどん増えて、一緒に居れば居る程、好きだと想う気持ちが増して行って。


いつも一緒だったから。


恋次君が、当たり前のように隣に居てくれたから……。

別に好きだと言われた訳でもないのに、恋次君もそうなんじゃないかと思っていた。

私は何を、自惚れて居たんだろうか……。


「そんな訳ないのに……」


もう、恥ずかしくてまともに顔も見れやしない。
自嘲も洩れないからと溜め息を吐いて目を伏せた。



其れは酷い偶然だった。

噂の中の、何処か現実味の薄かった彼女が、突然実態を伴って現れた。

そんな感じ。


「そうだよね……」


なんて納得する自分は、只の部外者でしかなかった。


恋次君の彼女は、とっても可愛らしい女のコだった。
何かこう、ふわふわっとしてて小さくて、守ってあげたくなるような……。

彼の隣に、とても似合っていた。

並んで歩く二人を見詰める、やっと現実を受け入れた自分がいた。





立ち尽くして見ているのも未練がましいと踵を返した。瞬間、予期せず掛けられた声に大袈裟に肩が跳ねていた。


『紗也さん……?』


霊圧で判って居るだろうに、何故、問い掛けの形なのかと苦笑が浮かんだ。

恋次君の声が、何だか罰が悪そうに聴こえたのも気のせいだけじゃない。

其の理由が嫌なくらいに解って、私の眉間にも本意ではない皺が寄っていた。


振り返って、私は何を云うべきか……


聴こえない振り、なんて大人気がない。

私には、醜い感情に囚われる資格さえも無いんだ……。


一つ息を深く吸って、揺らぐ気持ちを落ち着けた。

ちゃんと先輩らしい対応が出来るように。
恋次君に、嫌な思いをさせないように。

私の気持ちはきっとバレバレで、恋次君だって気不味いだろう。


だから、大丈夫だから。



あんな事に大した意味は無い。



恋次君が気にする事なんてないんだと想いを籠めてみたけれど。

あまり上手く出来なかったみたいだと、恋次君の悲痛な表情に失敗を悟った。


こんな時に、上手く立ち回る事も出来ない。
其の場を取り繕う事も出来ない。


「もう、自分が嫌だ」


ちゃんと笑ってあげたかった。

笑えると、思っていたのに……。





そう上手く、無かった事にはならないみたいだ。







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