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 01


「阿散井に女が出来たみたいだな」


不意に声を掛けて来たのは、長年の友人で直属の上官でもある修兵。


「そうみたいね」


確か三番隊のコだったよねと書類を見ながら応えれば、お前はそれでいいのかと見ていた書類を抜き取られた。


普段は滅多な事では飄々とした態度を崩さない此の悪友が、こんなに不機嫌丸出しなのも珍しい。けど、


「良いも何も……」


だって、彼女が出来たって事はそう言う事でしょう?


「私が口を出すような事じゃないじゃない」


其れは、恋次君の問題だ。


そんな私の返答の何が気に入らなかったのかは知らないけれど、眉間の皺を更に深くした修兵が、もう勝手にしろと出て行った。


「書類、返してってよ……」


拾う相手の居ない言葉は、広くない室内に溶ける。


「莫迦修兵……」


正直、私には修兵の不機嫌な理由が解らない。


恋次君とは修兵を介して知り合った。

二人はお互いに気が合うようで、あの現世の実習以来何かと連るんで居て、時間を合わせて呑みに出たりもしているようだった。



ちょっと出て来いと急に呼び出された居酒屋に顔を出すと、修兵の向かいには阿散井副隊長の姿が在って。
初めましてと挨拶をする私にニコリともせず、恐い顔で頷くだけの阿散井副隊長は終始ムッとしていて……。

修兵の隣に座らされて一緒に呑んでいる間も崩れる事の無い其れに、面識の無かった私はどうしたら良いのかと戸惑うばかりだった。


『ちょっと修兵。私、帰った方が良いんじゃないの?』

『何でだよ』

『その質問に驚くわ』

『あ?』

『いや、だから。阿散井副隊長、ずっと嫌そうにしてるじゃない』


だからそろそろ帰るねと続けようとした私に目を丸くした後、修兵は其れはもう愉しそうに声を上げて笑ってくれた。


「阿散井ぃっ!お前ぇの顔が恐ぇから、紗也がもう帰るってよっ」


ちょっ、と――っ!!!


此の酔っ払いは何を言い出すのか。いや似たような事は言ったけど!


何も本人に云わなくてもと修兵には一撃を入れて、恐る恐る目を向ければ。


「…………」


意外にも、と言ったら失礼か。
目を見開いて固まっている阿散井副隊長がそこに居て、今度はその表情に驚いて見詰めてしまった。


「いや……その。そんな見ないで貰えないっすか」


見詰めれば見詰める程、髪色に近くなって行く顔が面白い。


「いや。だからっすね……」


沸騰したみたいに湯気まで出そうな勢いで。
もう、隠し切れなかった右腕から覗く耳までが紅い。

そうして、もう此れ以上は紅くならないだろうなと思うくらいに紅くなった阿散井副隊長が、ニヤニヤする修兵を睨み付けた後で、


「四宮先輩の前で、緊張してるだけ……っすから」


出来れば帰らないで下さいと、しどろもどろになりながら言った。







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