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 太陽が堕ちた日


此の終わりのない平衡世界で。


私が望むのは

たった一つの事でした――…









何度好きだと伝えても、彼の耳に届く事はなく。
どんなに手を伸ばしても、彼に触れる事はない。



もう終わりにしたいと心が叫ぶのに、愚かな私は自分で終止符を打つ事が出来ないままで、ただ痛いと子供のように泣いて居ただけ。


この声が届かないのなら

私が此処に在る意味なんてないのにと……。






いつも恋次先輩の後ろ姿だけを見詰めていた。

向き合って居たって変わらない。
私が話している彼は、此処には存在しない虚像のようだった。



あの日。

いつまでも終われない、莫迦な私を見兼ねたのかも知れない一角さんが、恋次先輩をけし掛けてくれていた。



無理っす。

対象外なんてもんじゃ無いんすよ……。




そんなの、当たり前じゃないですか。

だって私達は同じ世界に在ないんだから。


解っていて尚、性懲りもなく痛む此の気持ちなんて、消えてしまえばいいのに……。


無理って何ですか。
対象外って何ですか。


恋次先輩は一度だって私を見てくれた事なんて無いじゃないですか。


『なぁ、紗也』と話を振られて、気付いた時には口が勝手に動いていた。


『それでもダメなら諦めますから』


ダメだって事は、もう十分に解っているから。
だからさっさと私に止めを刺して下さい。


其の時だけでいい。

向き合って、そして、同じ世界で私を見て――…




『俺は――…』








私はあの時、何て言ったかな。
あまりにも衝撃が大き過ぎて、何を口走ったかも憶えていない。



君はね……



恋次先輩が六番隊に異隊される時に、私を連れて行くと言っていると聞いた。
弓親さんに内々に打診された私は、即座に其れを断っていた。

其の後、何と恋次先輩に伝えられたかまでは、私は知らない。

其のまま伝えてくれて構わなかった。けれど、弓親さんや一角さんの配慮が有ったらしいとは、後で知ったこと。


私達は本当の意味で付き合っていた訳じゃなかったから、隊が離れてしまえば会う機会も激減する一方だったけれど。

私を見ない。私以外を其の瞳に映す恋次先輩を見るくらいなら……


一緒に居るよりはずっと気が楽だ。


そう思えた辺り、私も大概強くなっていたらしいと嘲笑えた。


偶に十一番隊に顔を出す恋次先輩は、一角さん達に言われてだろう、一応“彼女”と言う名目の私に気を遣ってか、何かと誘ってくれていた。

申し訳ないと思いつつも、其の時だけは一緒に居させて貰った。

私は、いつか来る最後の其の瞬間まで、“彼女”で在り続けなければならなかったから。


一緒に居れば、相変わらずの遣り取りを繰り返し、楽しくない訳ではない。

何も変わらない。
私も何かを望む事もない。

いつか、この莫迦げた関係に終わりが来るのを、私は傍観していれば良かった。


終わりなんて怖くない。


だって私達は、何も始まらなかったんだから。



お前を女としては見れねぇぞ……



女じゃなかったら何なんですかと、惨めを通り越して笑えた記憶は風化して消えた。

あれが私の、最初で最後の願いだったらしい……。


其れでも、あの言葉が在ったから、やっと私は恋次先輩に背を向ける事が出来た。


……やっと、泣く事が出来たんだ。








別れて欲しいと、申し訳無さそうに告げる恋次先輩を、複雑な想いで見ていた。

付き合っていると思ってくれていたのかという驚きと、『別れる』ではなくて『別れてくれないか』と訊かれた事に不思議な気持ちになった。


私が、否を口にする訳が無いじゃないですか。


そんな事ですら私達はすれ違うのかと、三年も前の傷がジクジクと痛みを主張する。

必死で抑え込んだ痛みは躯を蝕んで、ただ感覚が麻痺して行くようだった。


『解りました……』


貼り付けた笑顔で了承を告げて、私は踵を返した。


恋次先輩がそれに気付く事は無い。


だから、もう其れでいい。








『おいで……』


恋次先輩と別れた日。

弓親さんが其の綺麗な顔を歪めて私を抱き締めてくれた。


『弓親さん……』


私、頑張ったよ……。


『そうだね』

『……うん』


私は此の恋を、頑張ったはずだ。

やっと、終われたはずだ……。






『紗也……』


君はね、此れで終わるって言ったんだよ。


『終わる』ってね。




始まりのはずのあの日に、
君は全てを終えたんだねと……。










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