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01


こんにちはと挨拶をしたら、此方も見ずに相槌だけを返された。

そのまま通り過ぎて、十分に離れた霊圧を確認してから振り返る。

遠ざかって行く背をいつまでも見送りながら、そんな自分が未練がましくて、情けなくなってしまって口唇を噛んだ。


『十四日は空いてるか?』


少し照れたように、でも優しい眼差しで檜佐木副隊長に誘われた。

誘われたと言っても、『それに託つけての集まり』になんだけれど。
それでも、檜佐木副隊長がずっと好きだった私は夢みたいに嬉しくて、お礼を告げた時には真っ赤になっていただろう。

この気持ちが、溢れ出てしまうくらいには……。


「私だって、行けるものなら行きたかったよ……」


と、今頃泣き言を言っても仕方がない。無理なものは無理だった。


『嫌だったら、嘘なんか付かなくても普通に断ってくれりゃあいいんだけどな』

『あの……?』

『いや、誘ったりして悪かった』

『そんな事は……』


……ないです。


告げようとした言葉の半分は、私の中に飲み込まれた。

最後まで話も聴かずに去って行かれた檜佐木副隊長の少し冷たく感じた霊圧に、また誘って下さいとは云えなかった。


「嬉しかったのに……」


あんな風に、話の途中で居なくなってしまう事なんて今まで無かった。

あれ以来、それまで有った挨拶がてらの簡単な会話さえも無くなって、避けられているのも気のせいじゃないと解っている。

ほんの少し、近い場所に在させて貰っているかも知れないなんて、自惚れたりしていたから罰が当たったのかも知れない……。



十四日の夜は勤務になってしまっていた。

こんな夢みたいな事が起こるなら、是が非でもお休みを死守したかも知れないのに……


「って、そんな訳にも行かないか」


仕事なんですと告げた瞬間、檜佐木副隊長が怪訝そうに眉を顰めた。

折角の隊長格の方からのお誘いをお断りした事で、何か不興をかったのかも知れない。
舞い上がっていたから、自分でも気付かない内に何か失礼をしてしまったのかも知れない。

何度振り返っても、自分じゃ良く解らないけれど……


「チョコレートだけでも渡したかったのにな……」


今となっては、もうそれすらも叶わないと溜め息が洩れた。


「仕事、行かなきゃ」


傾き掛けた陽を仰ぎながら、込み上げるモノに耐えて気持ちを切り替える。

遅番の勤務に就くべく隊舎へと足を向けた。




「お疲れ様です、四宮三席。今夜は、その… 宜しくお願いします」


躊躇いがちに告げる五席の彼は、最近になって彼女が出来たらしい。

楽しんで来てねと笑うと、申し訳なさそうにしながらも、その表情は何処か幸せそうで羨ましく思った。

段々と疎らになって行く隊舎内は、いつもの喧騒と相異なって風がすり抜けるような寂しさを感じる。
今頃、皆、想う人とこの夜を過ごすべく向かっているんだろう。


「ちょっとだけ羨ましいや……」


檜佐木副隊長も今夜は……


私なんかを誘って下さった集まりの後は何方かと過ごされるんだろうかと、性懲りも無く痛んだ胸を押さえ付ける。


毎年、山のように贈られるチョコレートは、隊の皆さんに分けてしまわれると聞いた。

それでも、一度は受け取って貰えるだけ羨ましいと、未練がましく持って来た渡す事さえ叶わない小さな箱に苦笑した。





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