この声が届くなら | ナノ


「あの…、恋次先輩。本当に、行くんですか?」

「悪ぃかよ」



二年詣りに行くと言っていたのを思い出して、俺も行くと伝えれば、少し慌てたように紗也が言う。

それが何だか面白くなくて、俺が行ったらダメなのかと問えば、ダメじゃないですけどと返された。


けど、何だよ。


俺が行ったら不味い事でも有るのかと凄めば、首をブンブンと振って否定した。


じゃあ行くからなと半ば無理矢理了承させれば、照れ臭そうに俯く紗也が躊躇いがちに微笑んだ。


「無理、しないで良いですからね……」

「そっちかよ……」


ガク…と項垂れちまうのも仕方が無ぇだろう。


俺はまだまだ、遠慮ばかりな紗也の言葉を汲み取ってやる事が出来ねぇままだ。

その想いを解ってやれずに紗也の一言一言に一喜一憂しては、彼是と気を揉んで失敗ばかりしている。


「精進するしか無ぇな……」

「恋次先輩……?」

「二年詣りじゃ足り無ぇかもっつったんだ」


不思議顔の紗也を抱き寄せれば、安心したように躰を預けて来る。それが当たり前の事なんかじゃねぇんだと、俺は忘れちゃ行けねぇんだ。


「紗也……」

「……つーか、おい」

「……何すか」


好いトコロで邪魔しないでくれねぇっすかと溜め息を吐けば、だったら他所で遣りやがれと殴られた。
そう言えば此処は、九番隊副官室だったと思い出す。

俺の腕の中で真っ赤になってる可愛い紗也と、憮然とした檜佐木さん……は、


「可愛くねぇ」

「刈るぞ」







「お前ら、だんだん俺を空気扱いしてねぇか?」


乱菊さんに着付けて貰って来ますと言って出て行った紗也を、九番隊副官室で待っていた。


「…………」

「其処で黙るんじゃねぇよ」


つったってな。
何でかついつい、存在を忘れちまうんだからしょうがねぇだろ。


「お前今、失礼な事思ったろ」

「…………」

「何で解るって顔すんじゃねぇ……」


本当に、この遣り取りにも随分慣れた。


「お前ぇが此処に来なきゃ済む話だろうがっ」

「…………」

「だからその顔止めろ」







「恋次先輩……?」

「…………」


生きてて良かった……。


此処は喜びを噛み締めても良いトコロだよなと、俺は小さく拳を握り締めた。


お待たせしましたと入って来た紗也は、文句無しに可愛くて……。

いや、普段の可愛さに綺麗さが加わったって言うかもうどうしてくれんだこの野郎的な……


「紗也が噴死しそうだから、その辺にしてやれ。この莫迦犬」


全部、声に出してんじゃねぇと呆れられて紗也を見れば、全身染まってんじゃねぇかってくらい真っ赤になって俯いていた。


「可愛い過ぎる……」

「………っ」

「もう止めてやれー」







「寒くねぇか?」

「恋次先輩のせいで熱いです」

「は?」

「何でも無いです……」


可愛い紗也を檜佐木さんに晒してんのが嫌で、早々に九番隊を後にした。

もう知りませんとそっぽを向く紗也と手を繋いで、待ち合わせ場所に向かう間も眺めてしまう。


マジで可愛い……


「凄ぇ幸せ者かも知れねぇ……」

「もう、いいですっ」


絶対に私で遊んでますよねって、お前な……。


「違ぇよ。黙ってたら伝わんねぇだろうが」


全部、本気で言ってんだ。
まだまだ足りねぇくらいだろ……。


「俺は言いたい事は云うって決めたんだよ」


想った事は全部云う。
上手く言えねぇんだから、そのまま口に出せば良い。

すれ違うとか、もうそんな下らねぇ事で二度と泣かせたりしない。


カッコなんて付けてたら、失くしちまうだろ……


「紗也?」


不意にギュウギュウと抱き着かれて焦る。


「着物、崩れんぞ……」

「やっぱり、二年詣りは止めませんか?」

「何でだよ。折角、綺麗に着付けて貰ったのに……」

「恋次先輩に見て貰ったから、もう良いんです」


それより……

早く帰って抱き締めて下さい……。


「紗也……?」

「黙ってたら、伝わらないんですよね……?」

「……自分で言って、照れんなよ」


真っ赤になった紗也を引き寄せて、さっきからチラチラとウゼぇ野郎共から見えねぇように覆い隠した。


「お詣りしねぇのか?」

「ずっと一緒にいたいですって、恋次先輩にお願いするからいいです」


そう言って笑う紗也は……


「やっぱ、死ぬ程可愛い」

「もういいですっ」






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