クリスマスも年末も、当然のように紗也と一緒に過ごすつもりでいた。
だから、どうすんだと訊いた其れは誘いじゃなくて、只の確認のつもりだった。
『24日は恒例で、寂しい同期で集まって飲みますよ。大晦日は似たようなメンバーで二年詣りに行きます』
今年は私が幹事なんですよと笑う紗也が、極め付けにこう言った。
『恋次先輩は、どうされるんですか?』
有り得ねぇだろ……っ。
それは解ったけどよ……と呆れた視線を向ける檜佐木さんの蟀谷には青筋が浮いている。
来る………っ
「何で、その!怒ってるお前が九番隊に来てんだよ、その方がおかしいだろっ!」
不機嫌オーラも鬱陶しいから六番隊に帰れっ!!!
ハウスっ!!!
って、おい。失礼にも程が有んだろうがっ!!!
「で?お前はそのまま紗也を放置して来たのかよ」
一頻り文句を言った後、やっと話を聞く気になったらしい檜佐木さんに睨みながら云われるが、今回ばかりは俺に非は無ぇはずだ。
確かに俺も云って無かったかも知れねぇが、そんな事は言わなくても解んだろ。
付き合ってんだから、普通は一緒に過ごすだろうが。
今年はちゃんと紗也にプレゼントも用意して、時間が有れば現世に行くのもいいかとか、色々考えても居たっつーのに……。
紗也が俺と一緒に過ごそうとか、一緒に居ようとか。
少しも、考えても居なかったっていう事実に虚しくなったっつーか、つい頭に血が昇っちまった……。
そのくせ結局気になって、こうして紗也を待ってりゃ世話無ぇよなと溜め息も出る。
「本当に、何考えてんだか解りづれぇ……」
そう呟けば、檜佐木さんの眉間に皺が寄った。
「お前はちゃんと、紗也を誘ってやってたのかよ」
「つったって当然っ……」
「当然、何だよ」
去年まで俺らと莫迦騒ぎしてたのは、何処のどいつだよと檜佐木さんの霊圧が上がる。
「…………っ」
「お前は今まで紗也と過ごしてやった事が有るのかよっ!」
この莫迦犬っ!!!
扉をぶっ壊す勢いで副官室を飛び出した俺の耳に、さっさと迎えに行けと怒鳴る声が遠く聴こえた。
「何で戻って来ねぇんだよ……」
探すまでも無く、相変わらず真っ直ぐに辿り着いた先に、縮こまるようにして蹲っている紗也が居た。
傍に寄って抱き締めた紗也は冷えきっていて、こんなに寒い日にと自責の念が沸き上がる。
「恋次先輩が、檜佐木副隊長に会いに居らしてたから……」
私の顔なんか見たく無いかと思ってと俯く紗也が口唇を噛み締めている。
「怒ってた、から……」
本当に俺は、どうしようも無ぇ……。
「違ぇよ。お前に会いたくて待ってたんだよ……」
例え怒ってたって、お前の顔が見てぇんだ。
「さっきは悪かった……」
付き合ってるなら当然……当然、何だよ。
その当然を与えてやりもしなかったくせに……
俺はいつも失敗する。
紗也の気持ちも考えずに、ついつい突っ走っちまう。
「紗也……」
「……はい」
「クリスマスは一緒に居てぇ」
ちゃんと、此処から始め無ぇといけなかったのに……。
「ずっと、他の予定なんて入れるなよ」
「………うん」
「一緒に、居てくれるだけでいいから」
「うん……」
私も一緒に居たいですと、紗也がギュッと抱き着いた。
俺は……
こうして言わせてやれねぇとダメなんだ。
何も持たない事を、当然だと疑ってもいない紗也に、嫌になるくらいに与え続けてやらねぇとダメなんだ……。
「お前はもっと、欲張りになっていい……っつーか、なれ」
「あの、恋次先輩。本当に大丈夫ですから……」
「幹事なんだろ?顔出さねぇと不味いだろ」
「でも……っ」
紗也の予定をドタキャンさせる訳にも行かねぇだろうと予約された店に向かっていた。
「恋次先輩が行ったら、みんな吃驚しちゃいますから!」
もう伝令神機でも伝えて有りますからと、道中何故か頑なに嫌がる紗也に疑問を抱きながらも、目的の店に着いて暖簾を潜れば……。
「紗也、お前遅かっ……」
「紗也っ!阿散井副隊長を連れて来てくれたの?」
「阿散井副隊長、私の隣にどうぞ」
「狡い、私が先に話し掛けたんだから!」
目の前には、黄色い歓声を上げる女共と、明らかに残念そうな野郎共……。
同期って野郎も混じってんのかよっつーか、歓迎の仕方がおかしいだろ……。
コイツ絶対に同期の奴等に云って無ぇなとギロリと目を向ければ、ヤバいとばかりに目を逸らす紗也……。
通りで嫌がる訳だと合点が行く。
「紗也……」
「あの、恋次先輩にに相手にもされて無かったって皆知ってるのに、今更……その、言えなくて……」
若干低くなった俺の声に、不穏なモノを感じ取ったんだろう紗也があわあわと何か言ってやがるがその前に……
「言い訳は後でゆっくり聴いてやる」
手を繋ぐくらいじゃ足りねぇだろと満面の笑顔で抱き寄せて、有無を言わせずに口付ける。
紗也は俺のモノだと主張させて貰う事にした。