迷い猫を捨てないで

03.文句あるなら自分で考えて


「というわけで、緊急会議を招集させていただきます」

イルメラは冷や汗を浮かべるディーターを尻目に、腹の底から声を張り上げた。

卓には、団長、副団長を始め、兵士長、分隊長などお偉い面々が雁首を揃えている。

「まずは配布済みの資料をご覧ください」

イルメラの声に促され、一同は視線を落とす。

次の瞬間に見せた表情は、まさに人それぞれであった。

エルヴィン団長は眉一つ動かさず、ゲレオン副団長は微苦笑を浮かべ、リヴァイ兵長は初期設定で寄っている眉を更に顰めて、ハンジ分隊長は盛大に吹き出した。

『兵長がどうしても捨てられた動物を拾ってくる件に関して』

最も現状をわかりやすく伝えられると思って選んだ言葉だが、少々赤裸々が過ぎただろうか。

まあ今更どうでもいいけど。

「兵団の財政はひっ迫しています。ただでさえ予算不足なのに、兵長のせいでその少ない予算を猫や犬に持っていかれている状態です。このままでは兵団は近い将来立ち行かなくなります!早急な対策が必要と考えます!」

勢いで名指しで兵長を批判したけど、後で闇討ちされないよね?

静まり返った室内に、ハンジの引き笑いだけかこだまする。

エルヴィンが静かにため息を落とした。

「どうなんだ、リヴァイ?」

チラリとリヴァイに視線を移す。

兵長はご自慢の三白眼で団長に対抗してるけど、残念でした!団長はそんなの屁でもないんだよ!

「議論に値するとは思えないが」

しれっと言い放つ。

イルメラは眉間と口元を引きつらせた。

「リヴァイ。事実、資金は不足している。兵団の事情はお前もよく知っているだろう」

ゲレオンの発言にイルメラは勢いを吹き返す。

一同、というか主にリヴァイに見せつけるように大きく頷いた。

「御託はいい」

「は!?」

イルメラは思わず声を上げた。

ディーターにたしなめられ、ムッと口を結ぶ。

ハンジはヒーヒー笑いを堪えている。

「提案があるんだろう。それを早く話せ」

「なぁにを偉そうに」

小声で呟いたつもりが、思いがけずハッキリと響いてしまった。

げっ、と頬が痙攣するが、まあいいかと思い直す。

リヴァイを睨みつけた。

リヴァイは悪びれもせずにイルメラを睨み返し…いや、ただ見ていただけかもしれないが、とにかく視線が絡み合った。

「少なくともお前よりは偉い。グズグズするな」

イルメラは拳を振りかぶった。

その脇からディーターがガッチリと腕を回す。

邪魔だ事務長!

止めてくれるな!!

「私は正式にはあなたの指揮系統には属していません!直接命令しないでいただきたい!」

リヴァイは煩わしそうにため息を落とした。

「ゲレオン」

「イルメラ、気持ちはわかるがひとまず収めてくれ。お前の提案を聞きたい」

ゲレオンの取りなしでイルメラはようやく体の力を抜く。

ディーターが大げさに胸を撫で下ろした。

ひとつ空咳をして、イルメラは資料を示した。

「では、配布資料の二枚目をご覧ください。これが、この危機的状況を打破するために私が考案した起死回生策です!」

再び目を落とした数人が、ぎょっとして顔を上げる。

妙な空気が辺りに流れる。

その顔には「この女、正気か?」と書いてあった。

反応が好意的だと一目で判断できるのはハンジくらいのものだ。

『わんにゃんカフェ経営の提案について』

ま、それも当たり前か。

「いいじゃないか!やりなよリヴァイ!」





(20140817)


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