迷い猫を捨てないで

02.兵長って何様さ!


横暴だ!

職権乱用だ!

鬼だ!

悪魔だ!

丸投げかよ!!

ふざっけんなよ!!

私はまず直属の上官のところに駆け込んだ。

「って兵長が!!」

「何で止めなかったんだ!!」

「止めなかったと思うんですか!私の昨日の夕飯、パン一個と具のないスープですよ!?あの人、命令だの一言で全部片付けちゃったんですよ!それ以上私にどうしろっていうんです!?」

「くっ…!」

「ディーター事務長!ゲレオン副団長からエルヴィン団長に直訴してもらってください!」

経理部門は副団長の指揮下に置かれている。

実務の管理を行っているのが事務長で、私たちの実質的なトップもこの人だ。

「だいたい!何で私が兵長に命令されなきゃならないんですか!?あの人の指揮系統下に入った覚えなんてないです!あの人が私に命令できる権利なんてないはずなのに!」

「ならそう言えばよかっただろう!」

「言えますか!?事務長なら言えますか!?あの人視線だけで人に危害を加えるんですよ!?」

ディーターは黙り込む。

「とにかく!団長に抗議してもらってくださいっ!」

机を叩きつけ、イルメラは憤懣やるかたない感情を剥き出しにしたまま、事務長室を後にした。



廊下を歩いていると、向こうから見知ったクリ頭がやってきた。

私の怒りの矛先センサーは過敏に反応してやつに切っ先をつき立てる。

「あ、こんにちはイルメラさ…」

「グンタァァァァ!!」

「ウオォォ!?何んですか出会い頭に!?」

「ぬぁんだ、ですってぇぇ!?」

何でそんなこともわかってないんだよ!?

読めよ!

空気読めよ!

説明し終える前に血管切れる自信あるわ!

「上官の責任は部下の責任でしょ!?そんなに猫が好きなら、あんたらの食事も猫缶にしてやろうか!?」

グンタの顔が引きつった。

これですべてが通じたらしい。

「まさか…リヴァイ兵長はまた…」

「そのまさかだわ!もうリヴァイ班で面倒見てよ!」

「無茶言わないでください!」

「無茶言ってんのはあんたの上官だっての!あたしたち事務職を餓死させたいの?それとももしかして兵団を潰す気!?アレか?どこぞの組織から兵団を窮地に追い込むために送られてきたアレ的なやつなんじゃないのか!?」

「落ち着いてください、イルメラさん」

「これが落ち着いていられるか!」

「あれ?おーい、グンタ!イルメラさん!」

悪魔の手先2号、ペトラ・ラルがやってきた。

呑気に手なんて振っている。

「あ、おいペトラ…お前、今こっち来んな…!」

「え?なにー?」

「ペトラァァァ!!」

「ひっ!!何!?何なんですか一体!?」

何でそんなこともわかってないんだよ!?

読めよ!

空気読めよ!

「あんたたちの食事、全て猫缶にしてやろうかァァ!!」

ペトラがサッと青ざめた。

これですべてが通じたらしい。

「兵長…まさか…」

「そのまさかじゃぁぁ!!」

ひとしきり騒いだイルメラは、ようやく荒ぶる獣を放出し終えたのか、通常の怒りに戻った。

あくまで怒りのレベルが通常に戻っただけだが。

「でもホントに困るんだって。もうこれ以上経費割く余裕なんてないし。ここで暮らしたいなら自分の食費くらい自分で稼いでもらわないと…」

ん?

「あれ?今なんて言った?」

「何も言ってませんよ。口挟む隙、ありましたか?」

「いや、でも今、何か神の啓示のような言葉が聞こえたような…ペトラ?」

「グンタに同じです」

ってことはやっぱり神か?

「ずっとイルメラさんが一人で喋ってたでしょう」

私?

「私今なんて言ったっけ」

「兵長が動物をむやみやたらに拾ってくるから本当に困る、ですよね?」

と、ペトラ。

「違う、それじゃない」

グンタが続ける。

「自分の食い扶持くらい自分で稼げ、とか何とか」

イルメラの脳天を天啓が直撃した!

「それだあぁぁ!!」

そう、イルメラは閃いたのだ!

「天っ才!私、天才だわ!ああ、自分の才能が怖い!怖い怖い!!アハハハハ!!」

盛大に高笑いする様を二人が白い目で見ていたことにちゃーんと気付いていたイルメラは、もちろんそれなりの制裁を食らわせてから、疾風の如き勢いで自室に駆け込み、筆を走らせた。





(20140817)


- 3/22 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -