キミ的スピリット

04.マルコ的スピリット


「というわけで、僕らがコーボルトだと思ってたのは、この子だったんだ」

アルミンに促されるようにして前に出たのは、確かにカヤだった。

信じられない。

だって、彼女はあの時、僕らの目の前で――

「俺には誰も居ないように見えるが?」

ライナーの声で我に返った。

「え?ライナー、見えないのか?」

ライナーは僕の返答に驚いたようだ。

「お前には見えるのか、マルコ」

僕はちょんと立つカヤに視線を合わせる。

「カヤ…だね」

カヤはにっこり微笑んだ。

『マルコ、ひさしぶり』

声は聞こえないが、口がそう動く。

僕は、自分でも何を意味するのかわからないため息を漏らした。

「久し…ぶり」

今、どんな感情を覚えるのが正しいんだ。

死んだはずなのに何故ここにいると驚けばいいのか。

もう一度会えて嬉しいと喜べばいいのか。

死してなおこの世に束縛されていることを嘆けばいいのか。

でも、ホッとしている自分がいる。

それは、当の本人があっけらかんと笑っているからかもしれなかった。

「何だ?ホントにいるのか?俺にも見えねえぞ?」

コニーが疑うような眼差しで顎を突き出す。

彼にも見えていないらしい。

カヤはヘラっと笑って頬を掻いている。

「私にも見えない。エレン、あなたは」

「見える。しかも透けてる。幽霊ってホントにいるんだな」

カヤはくすぐったそうに笑って頭に手をやる。

違うぞ、カヤ。

照れるところじゃない。

「私も見えます。ジャンは」

「オレ…も、見えるな」

ジャンは僕を振り返った。

「時々お前と話してたやつ、だよな。その…」

僕は頷く。

「カヤ・アーレンス。僕らと同じ訓練生だった」

「そうなんですか?私は話したことないですね」

「オレも覚えてねえな」

サシャとコニーが顔を見合わせた。

アルミンが控え目に告げる。

「こう言えば、皆わかるんじゃないかな。彼女は…闇打ちの最初の犠牲者だ」

場が一瞬にして凍りついた。

皆、すぐさま思い当たったようだ。

それはそうだろう。

あの時のショックは大きかった。

初めての闇打ちだったし、訓練中の初めての死人だった。

落下していく彼女がやけにゆっくり見えたことを覚えている。

あれを機に、何人かが開拓地行きを志願し、残った者たちの訓練に対する姿勢が変わった。

「そうか…あの時、崖から落ちた…」

エレンが瞳を揺らす。

「その、カヤが、そこに居るってのか?」

ライナーが半信半疑で問う。

「ああ。居るんだ」

ベルトルトが答える。

「そうか、お前も見えるんだな」

「じゃあ、皿洗ったり、洗濯物干したりしてたのは、そいつってことか?」

コニーの言葉に、カヤは満面の笑みで頷いた。

「だってさ」

僕はカヤの代わりに返事をする。

「じゃあ今までもずっと?でも、この現象が起こるようになったのって、つい最近ですよね」

「お前、今までどうしてたんだ?ずっと訓練所に住みついてたのか?」

ジャンが尋ねる。

彼女は首を捻った。

「なんだ?わかんねーのか?」

彼女は両手を合わせて耳に当てる。

それからうーんと伸びをして見せた。

「寝てて、起きた?それはいつ?最近ってこと?」

僕が解釈して聞くと、彼女は首を縦に振る。

「どうして今頃…何かきっかけがあったのか…?」

彼女は首を竦めただけだった。





(20131116)


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