キミ的スピリット

09.クリスタ的スピリット


カヤがサシャを引っ張ってきた。

サシャは狼狽の声を上げながら食堂に転がり込む。

そして顔を上げた。



さあサシャ、これで機嫌を直してよね。



「よ、よお、サシャ」

緊張した面持ちのコニーが声を掛ける。

声は震えて裏返っていた。

側にいる何人かが必死に笑いを噛み殺している。

私も、その光景が微笑ましくて思わず頬が緩んでしまった。





「え?仲直りの秘策?」

カヤは大きく頷いた。

身振り手振りでやりたいことを訴えてくる。

どうやら手伝ってほしいということみたいだ。

私はもちろん引き受けるつもりだった。

あの仲の良い二人がいつまでもあのままなのはなんとなく落ち着かないし、悲しいと思っていたから。

ユミルはどうだろうと窺うと、彼女は頭を掻きながらため息をついた。

「ったく、手のかかる奴らだな」

私はクスクスと笑った。

やっぱり彼女も同じことを感じていたらしい。

「私はコニーに作り方を教えてあげればいいのね?」

「私は丁重に寄付金を募ってくればいいわけだな」

カヤはにっこり笑って親指を突き立てた。

私は、ユミルの物言いに若干の不安を感じたものの、これもコニーとサシャのためだと思うことにした。



「さ、コニー!これでサシャの心をグッと掴むのよ!」

「お、おう!」

調理場で、揃った材料を目の前に、私はコニーに気合いの喝を入れた。

「材料を切って、味付けして、オーブンで焼いたら完成だよ!」

「おう!」





そうやって、私とコニーがサシャの心を鷲掴みするために作ったのが、このポテトグラタンだ。

コニーが不安げに私を見つめるので、私は思い切り親指を突き立てた。

もちろん、横でカヤも同じように親指を突き立てている。

大丈夫、あんなにがんばって作ったんだもん。

サシャもきっと喜んでくれるよ。

「ハムは用意できなかったけどよ、お、お前のためにポテトグラタン作ったんだぜ。これで機嫌直せよ、な?」

サシャは無言のまま席に着いた。

まだまだ機嫌を直すつもりはないが、接待を受ける気にはなってくれたようだ。

ほら、早く行けよとジャンに背中を押され、コニーはサシャの元にグラタンを運ぶ。

ちなみに、こんなにギャラリーがついたのは、ユミルが顛末を見届ける権利を条件に寄付を募ったかららしい。

みんな、やっぱり二人の喧嘩が気になっていたのだ。

ちなみに、この場を取り仕切ってくれたのはアルミンである。

「ど、どうぞ」

畏まったコニーの様子に、周囲は忍び笑いを漏らす。

サシャはまだ無言のまま、フォークを手に取り、グラタンを一口、口に含む。

サシャが咀嚼するのを一同が息を呑んで見守った。

なんだか愉快な光景だ。

やがてごくんと喉を鳴らしたサシャは、コニーを見上げる。

が、まだ口を開かない。

「ど、どうなんだよ?」

サシャは難しい顔のまま言う。

「まあまあです」

カヤがクスクスと笑った。

「まあまあって…」

「こんなことされても、ハムは帰ってきません」

「な!だから、せめてと思ってこうやって…」

「普通です。ハムには遠く及びません」

「お前なぁ…!」

「でも」

サシャは下を向いた。

「コニーと話さなくなってから、なんか変でした。今まで楽しみだった食事の時間がつまらなかったし、食事も全然おいしくありませんでした」

私とカヤは顔を見合わせた。

「誰も遊びに付き合ってくれないし、話してても張り合いがありません」

そして、にっこりと笑い合う。

「寂しかったです」

再び顔を上げたサシャの顔は、くしゃくしゃに歪んでいた。

「コニーがいなくて、寂しかったです」

「サシャ…」

「ハムのことはとても頭にきましたが、でも、私にとって、ハムよりコニーの方が大事でした!コニー、仲直りしてください!」

そこまで言い切ると、サシャは大声で泣き出した。

そんなサシャをコニーは力いっぱい抱き締める。

コニーも泣いていた。

「俺もお前がいなくて寂しかったんだぞ!俺のスペシャル拳を受けられるのはお前だけなんだからな!」

「そうです!私のウルトラキックを受けられるのもコニーだけです!」

うわあああん、と抱き合う二人の泣き声が食堂に響き渡る。

ギャラリーはやれやれとため息と笑みを漏らした。

私とカヤも、やったねと手を叩き合う。

弱い静電気のような感触が手のひらをくすぐった。





(20140205)


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