キミ的スピリット | ナノ

07.コニー的スピリット


「だから!悪かったって言ってんだろ!いい加減に諦めろよ芋女!!」

「何でコニーが開き直るんですか!ちゃんと責任とって下さいよ!!」

「無茶言うな!!」

食堂に響き渡る怒声に、クリスタは苦笑した。

「サシャは何を怒ってるんだ?」

ライナーがクリスタの前に腰掛ける。

「サシャがあそこまで必死になる理由なんてひとつしかねぇだろ」

クリスタの横にはユミルがだるそうに座っている。

ライナーは呆れ笑いの表情になった。

「食いもんか」

「そう。珍しいよね。揉めてるのがエレンとジャンじゃないなんて」

「おいおい、それじゃまるで、オレとエレンがいつもあんなくだらねぇ口げんかしてるみてぇじゃねーか」

奥にいたジャンが身を乗り出す。

「間違ってねーだろ」

ユミルがため息をついた。

「んだとぉ?」

ジャンの向かいに座っていたマルコがまあまあと苦笑いする。

「お。終わりそうだぞ」

ライナーが二人を指差した。

「もういいですっ!コニーなんて大嫌いですっ!!」

サシャが食堂を駆け抜けていく。

激しいドアの開閉音の後に残されたのは、唖然と立ち尽くすコニーだった。

「『終わり』じゃなくて、『続く』みたいだね」

少し心配そうなクリスタの言葉に、一同は乾いた笑いを漏らした。





「だから、俺だって悪かったと思ってるよ!」

俺は口を尖らせる。

「確かにあの日の夕飯のハムは貴重だった。
しかもうまかった。
ほっぺたが落ちるかと思うくらいにな!
だから、あいつのハムを落とした上に踏みつけたのは悪かったと思ってる。
踏みつけたのが、トイレに寄って、ぬかるんだ土の上を歩いてきた靴だったことも、百歩譲って俺のせいだって言ってやってもいい。
けどよ!
仕方ねぇだろ!
もう起っちまったんだから!
それをよぉ…あそこまでやるか!?」

そうだねぇとオレの話に相槌を打つのはアルミンだ。

「サシャの価値観はほとんど食べ物で占められてるからなぁ。
あの取り乱し方は尋常じゃなかったよね。
でも確かに、ハムは滅多に口に出来ない貴重品だから。
例え、肉なんかほとんど入っていなくて、大豆たん白や他の材料で加工されたまがい物だとしても、僕らにとっては最高の贅沢品だ」

「何っ!?あのハム偽物なのか!?」

「そりゃそうだよ。僕たちみたいな末端の人間が、本物のハムなんか食べられるわけないだろ」

「そうなのか…なんか複雑だ…。あんなにうまいのに、所詮偽物なのか…。俺は偽物で満足させられる安っぽい人間なんだな…」

「そ、そんなに落ち込まないでよコニー。言っただろ、僕らにとってはあれがご馳走なんだ」

「ま、それもそうだな」

アルミンがふと視線を上げる。

「え?ああ、そうだね。コニー、本題がずれてるってさ」

「本題?」

ああ、と俺は思い至った。

そういえばサシャを怒らせた話をしていたんだった。

俺には見えないが、さっきからここにカヤがいるらしい。

「なぁカヤ、お前もやりすぎだと思うだろ?露骨に俺のこと避けたり、かと思えば思いっきり舌を突き出してきたり、陰から睨みつけてきたりよぉ」

俺はカヤの代わりにアルミンを見る。

「腕組んで、うーんって言ってる。謝ってもダメなのって」

「何度も謝ったんだぞ!聞く耳持ちゃしねーんだ、あいつが!」

アルミンは目を細めた。

「うん。そうだね」

「何だって?」

「いつも仲良しの二人なのにって。しょんぼりしちゃった」

俺は極まりが悪くなって視線を逸らす。

自分が思ったより凹んでいることに、今、気付いた。

「俺にどうしてほしいんだよ、あいつは」

ガシガシと頭を掻く。

「もうしばらくすれば、サシャも冷静になるんじゃないかな」

アルミンが励ますように笑う。

「だといいんだけどな」

うわっと突然アルミンが体をのけ反らせた。

「うぉっ!何だよアルミン」

「いや、カヤが…カヤ、どうしたの?え?思い付いた?何を?わっ!」

アルミンの右腕が上がった。

引っ張られているように見える。

「おい、アルミン!どこ行くんだ?」

「わからない!カヤ、どこに行くの?」

アルミンはたたらを踏みながら歩いていく。

「え?ああ。コニーは準備ができるまで待っててって。とにかく、僕は行ってみるよ!」

「おい、アルミン!」

アルミンは最後は小走りで去っていった。

「…準備って何のだよ」

俺はポツンとその場に取り残されたのだった。





(20131220)


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