溶岩により熱を持った地面が赤々と色づいており、時々上がる黒煙とゆらゆらと陽炎が揺れてはまた溶岩が吹き出るこの地帯に凜と立つ黒い姿ひとつ。 「……」 自然な足取りで、しかし力強く。 「……ここは?」 どうやら迷っらしい。さっきもここ通ったような…と呟いてまた歩き出した。 彼はずっと前からここにいたような感覚を感じていた。赤い溶岩を見ていると何故か焦るような、急かされるような、快い気持ちではない。早く、行かなくては…でも、どこへ?とそんな事ばっかぐるぐると曖昧模糊していた。自分は一体何がしたいのか、何処から来て、何処へ行きたいのか…さっきからそればかり考えていた。 俺は流れ者 目的もなくただいきあたりばったりの旅する流れ者… だが途端に激しい眩暈に襲われる。そしてノイズのかかったような、バラバラの記憶の一欠片が脳裏に流れる。 ー……追…か……ろ…ー ー…アイ…テ……ー 「…気持ち…悪っ…」 揺れる。 揺れというのが大の大嫌いだ。気持ち悪い。酔いも原因のひとつであるか… 胃の中から押し上げられるかのような……あの沸き上がる感じが気持ち悪い。 しばらく気持ち悪さが引くまで堪えよう…。 高熱の地面は熱いのにも関わらず、平気で至って普通にその場で膝をついた。とくに問題なかった。 「………くそ」 とりあえず呟いてみる。 だからといって何かが変わるわけではないが。 何かしていないと辛かった。 「…眠れば治るかな…」 そう言ってその場に倒れたと思うと寝息を立てて寝始めてしまった。 ーーーーー ーーー …… … ラージャンは火山をぶらぶらしていた。何かすることもなくひまをしていたら何かに足を取られ、前のめりになって転んだ。 「なっ…!?なんだよバカヤロウ!」 よそ見をして歩いていた自分が悪いのだがそんな事まで気を遣う余裕はなく、逆ギレした。 「んあぁ?なんだコイツ?」 見た目はティガレックスなのだがなんか色が違う。 ー黒い…ー ラージャンは目を見張った。 普通、ティガレックスつったらあの派手な色した…あれ?と思いにふける。 「…起きろよ!」 まあ、考えたってわからないもんはわからない。ラージャンは躊躇わず黒いティガレックスを蹴飛ばした。 「うっ……!?」 「腹、地面にくっつけたままだと火傷すっぞ黒い兄さん。」 「!?、…!?」 黒いティガレックスは相当眠いんだろうな、目を覚ましても寝ぼけていて現状がわからないといったような呆けた表情をしていた。 「プッ、黒い兄さん、アンタすんごく阿呆な顔してる。」 ラージャンが笑うと黒いティガレックスはむっとしたように唇を引き結んでラージャンを睨んだ。 寝起きの為、すぐに喋れないみたいだ。 「あ゛ー……」 枯れたような声で何か言おうとしたけど忘れたみたいで、黒いティガレックスは沈黙した。 「…………」 「黒い兄さんアンタ一体何者?」 黒いティガレックスなんて見た事がない。 神経を逆なでないように静かな声で尋ねた。すると黒いティガレックスは「ぶらぶら適当に、旅してる…」とだけ言った。 「へぇー?じゃあここ来たのって今回が初めてだったりすんの?」 すると黒いティガレックスは困惑した表情になり、「あー…、そうかもしんないし、そうでもないような…」とはっきりしない答えが返ってきた。 「どっちだよ?」 ハァ、とラージャンは溜息をつく。 「なんか、俺、なんで旅してんのか分からねぇんだよ。記憶がなくて……」 「えっ何、記憶喪失なのか」 「そう…」 言葉が途切れそうになる。黒いティガレックスは懸命に言葉を探そうとする。 「そう?」 「そう…、なっちゃいます。」 「……なっちゃいますか。」 「ああ。」 まるでコントみたいな会話。可笑しくなってくるラージャンをよそに黒ティガレックスはあっ!と思い出したかのように顔を上げた。 「記憶ないけど、ここへ来たら頭痛が酷くなったんだ。」 「…じゃあ、原因があるのか。」 「みたいだな。」 「(ひまだから)付き合おうか?」 ラージャンが笑顔で聞いてみると黒いティガレックスは心配な表情を浮かべたが「ああ、よろしく」といってラージャンの手を取った。 「じゃあ、俺が案内してやるよ」 「あー、頼んだぜ?金髪のお兄さん?」 「はぐれるなよ?」 黒いティガレックスは記憶の続きを探し始めた。 記憶喪失の旅人 何かが動き始めた 題目素材元:オレンジと月涙 << >> |