長編一瞬だけ | ナノ




泡沫の夢




本当に馬鹿だと思った。
何もできないもどかしさを知った。

何も言えなかった自分を呪った。











「あなたが藤堂平助くんね」


いつものように俺らの会える唯一の窓へと向かった先には、なまえの姿などなく、代わりになまえのお母さんがいた。


「は、はい…」


もしかして怒られる?!
そう思った俺は、覚悟を決めていたのだが。


「これを、藤堂平助くんにって、なまえが」

「て、がみ?」


可愛く彩られた封筒に丁寧に入れられた手紙。

中には可愛い、なまえに合った文字でこう書かれていた。


“平助へ

はじめて手紙を書きます。
なんか無駄に緊張するね、こういうの。

私は、小さい頃から身体が弱くて、殆ど外に出られませんでした。
窓から外を眺めながら、私の目に映る景色はずっと白黒だったの。
誰に話しかけられても答える気はしなくて。

でも、平助だけは違った。
平助に話しかけられた瞬間、世界が色鮮やかに見えたんだよ。
最初はわからなかったけど、次第に恋だってわかって嬉しかった。

この間は困らせてごめんなさい。
だけど、想いを伝えられてよかったと思ってる。”


急に、なまえのお母さんの携帯が鳴って。
ディスプレイを見た瞬間の青ざめた顔を俺は見逃さなかった。


「えっ?!なまえの容体が?!」


冷や汗が頬を、背中を濡らし、はやくはやくなまえのところに行かなきゃ…っ。


「俺も行きます…っ!」


“きっとこの手紙を読み終わる頃には私の身体は動かなくなっていってると思う。”


なまえの病室の前は慌ただしく、看護士が入れ替わり行き来して、これが現実なのか夢なのかわからなくて。
いつの間にか伝っていた涙が、服に染み入るのを見て、現実だと認識するけど…。


“ごめんね、平助と一緒に生きたかった。”


なら、

なら、逝くなよ!

涙は留まるなんて言葉は知らず。
次々と服に染み入っていく。

前が霞んで殆ど見えない中、なまえの手紙だけは鮮明に読めることができて。


“でもね、最後に平助と会えて本当によかった。“


「…なまえと、あ、え…て…っ」


“ありがとう。

大好き、平助”


「俺も…」


はじめてなまえを見たあの日から、


「好きだっ!だからっ…だから…」


お願いだから、


「なまえっ!逝くなぁああああああああっ!!」










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