32『…っ…』 そんな顔なんてさせたくなかった。 でも信じられないのも本当で。 苦しくて苦しくて悲しくて苦しくて。 そんな時だった。 気が動転している私の背後から、あの男が襲ってきたのは。 「なまえっ!」 そこからはスローモーションに見えて。 総司がこちらに走ってきて、私を総司の後ろにやったと思ったらバキッて音。 男は完全に意識を失ったよう。 『総司…』 「僕も人を殴っちゃったね…でも、」 大切な人を守るための拳も悪くないな、なんて悲しい顔で言う。 『信じていいの?』 そう言うと、再度総司に抱きしめられて、 「離さないよ。僕を信じてくれるまで」 あの日と同じ言葉。 でも、私の心を溶かすには十分すぎる。 『でもまだ許さない』 「え…」 パァンッ! 乾いた音が響く。 『これで許してあげる』 「容赦ないね…」 総司は左頬をさすりながら苦笑する。 そして、何か思い出したように辺りを見回した。 拾い上げたのは携帯。 「そういえば、左之さんと電話してたんだった」 『左之ちゃんと?』 電話はとっくに切れていたので、かけ直す。 プルルルル…の機械音が聞こえたと思ったらすぐに出てきた。 【総司っ?!】 「左之さん、こちらは解決しましたよ」 【なまえは?】 「いますよ、ここに」 私は総司の手から無理やり携帯を奪い取る。 『左之ちゃん!無事だよ!』 【なまえ…っ!よかった…】 『色々迷惑かけてごめんなさい』 【あぁ…本当によ…】 「とりあえず僕たちは学校に戻ることにするね」 【南雲たちもずっと心配してたから礼言っとけよ】 『うん…』 そこで会話は終わる。 さぁ帰ろうか、と握ってきた手は本当に温かい。 『総司の手温かいね』 「そう?なまえの手の方が温かいと思うけど」 → |