長編不器用な青春 | ナノ




12




目を覚ましたことを先生に伝え、異常なしと返ってきた。
少しの間安静にし、数日で退院できるらしい。


「千鶴!大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

「千鶴ぅぅ…っ!」

「もう、なまえ泣きすぎだって」

「だって…このまま目を覚まさなかったらって…」


大袈裟だよ、って言うけど本当にどうしようかと思ったんだよ。
千鶴は私にとってとても大切な人だもの。


「千鶴、どこか痛いところとかない?」

「薫…留学…ごめん…」

「いいよ。可愛い妹が怪我させられたんだからね」


私は犯人の名前を知っているけど、言ってしまっていいのかと今更ながらに思ってしまう。

黒幕名前に嫌われるのが怖いのか…?
先ほど見てしまった母親とのやりとりに同情する気なの?

悶々と頭の中で自問自答を繰り返している間に、目の前では例の話しに移り変わっていた。


「階段から突き落とされた時のことって思い出せそうか?」

「うん、曖昧なところもあるけど…」


あの日は、なまえに体育館まで送ってもらった後、筆箱忘れたことに気づいて取りに行こうと階段上がっていたら、上に女の子が立っていて…、と言ったところで平助が口を出す。


「それってこいつだったりしない?」


そう言いながら見せたものは、黒幕名字黒幕名前が写った写真。

何故彼が黒幕名前の存在を知っているのか一瞬疑問に思ったが、そういえば私と黒幕名前の会話を聞いていたんだっけ。


「そう、この子」


この子にね、「ムカつくのよ…私の好きな人の近くにいるあんたらが…独り占めしているあんたらがどうしようもなく憎いのよ!」って言われて落とされたの、と千鶴は語る。


「好きな人って…」

「藤堂でしょ」


やっぱりそう思ったのね。
誰だってそう考えるのが普通。

しかし、薫のあっさり感に磨きがかかっている気がするのは気のせいか?


「前に平助のことが好きなのか聞いたら逆ギレされた」

「決まりだろうな」

「なんか…悪ぃな…」

「平助くん、それは自慢に聞こえるよ?」

「な…っ!ちげぇよ!」

「からかってみただけなのに」

「千鶴ってそんな冗談言うやつだったか…?」


笑い声が病室に響く。
久しぶりの幼なじみ四人が揃い、こんな状況下で笑えるなんて。

さっきまでの私じゃ考えられなかった。
夢見れば見るほど辛かったから…。


「はいはい、なまえ、まだ安心するのは早いよ」


泣きそうになっている私に薫が一言。
それに千鶴が冷静に答える。


「そうだよ、まず先生が信じてくれないだろうね…」

「千鶴が先生に言えばいいんじゃないのか?」

「そんなことしたら、可愛い妹にまた何されるかわかったもんじゃない」

「それになまえも危なくなっちゃうでしょ」


目を覚ましたばっかりなのに随分と冷静に状況判断する千鶴。
この双子が頭の回転が良いことを再度確認した。


「それに変に先生に言って黒幕名字の耳に届いたら、千鶴となまえがどんな目に合うかわからない」


私は慣れたから大丈夫だけど、千鶴にまた何かされたら…。
今度は私が黒幕名前を階段から落としてしまうかもしれない。


「黒幕名字にバレないようにしなきゃいけない上に、確たる証拠集め…どうしたらいいんだ…?」


一つだけ考えがあるんだけど、ってかこれしか策がない気がするが。


「今まで通りに生活しながら、私は黒幕名前のことを、平助たちは周りから探っていくしかないんじゃないかな」


そんな私の言葉にいち早く反応してくれたのは、意外にも平助だった。


「駄目だ。なまえにはこれ以上辛いことは避けてほしい…」

「私は慣れたし、大丈夫だって!」

「慣れちゃ駄目だろ…」


平助がしょんぼり下を向いてしまった。
元気が出るような良い言葉が出てこない。


「落ち込んでいる暇はないだろ、藤堂」

「そう、だよな!」


薫の毒舌が平助を立ち直らせる。
その姿はまるで飼い主に良いように使われている犬のよう。


「なまえ?変なこと考えてないよな?」

「めめめ滅相もごじゃいません!」

「…噛んだら説得力に欠けるんだよ」

「ぎゃぁぁぁああああ」


平助は納得していないようだが、この作戦を明日から実行する。

そして、薫も私たちの学校に一時的に通うらしい。
今日はその許可を得るために学校に行ったらしいが、騒ぎになっていて酷かったと言う。

…全く気がつかなかった。


「薫…黒幕名前には気をつけてね…?」

「俺を誰だと思ってるの」

「天下の薫様です」

「ぶっ!天下!」

「なまえ、藤堂、そこに土下座しろ」


私は今、心の底から笑えているだろうか。

いつの間にか日は落ち、絶望しか見えなかった明日に希望が見えた気がした。


(2012.4.8改正)










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