長編不器用な青春 | ナノ




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最近疑問に思うことがある。


「なまえちゃん、また明日ね!」

「うん」


黒幕名前は何故あんなにも早く帰るのだろうか。

年頃なんだから、帰りに寄り道してお茶したりショッピングしたりとか思わないの?

金を持っていないとは思わない。
だって、お昼ご飯はいつも購買で買っているもの。
小遣いの話しをしたときに、月一万貰ってるって言ってた。

私を見張っていたいなら、ずっと近くにいた方がいいという考えにならないかな。

とにかく不思議に思った私は、別れた後の彼女の後ろをつけることにした。

バレたらどうしよう…。

そんな重たい気持ちを背負って。


「意外と歩くんだな…」


暫く歩いた後、見えてきたのはそりゃまぁ豪華な一戸建て。
いかにも金持ってますってオーラが滲み出ている。

別れた後は真っ直ぐちゃんと帰っているんだ…。
若干半信半疑だった考えは、ここで確信に変わった。


「帰ろ…」


だが、今回の行動の趣旨は、早く帰るその意味だ。
別に真っ直ぐ帰っているのかどうかなんて実際どうでもいい。

そう思い、踵を翻した時だった。


「何なの!?この点数!」


誰かの母親の怒鳴り声が、外にまで筒抜けている。
どうでもいいような家からだったら、早急に帰っているのだが、どうやらこの怒鳴り声は黒幕名前の家から聞こえるようだ。

近くまで行ってみると、玄関先で怒られているのが見える。


「ごめん…なさい…」


その姿は、学校で私を見下しているあいつとは思えない程に弱々しい。

学年でも上位に入るぐらい頭が良い黒幕名前は、真ん中より下である私とは雲泥の差。
そんな彼女がテストで変な点数を取るとは思えない。

きっと母親はすごい高い理想を黒幕名前に求めているいかにも教育者って感じの人だろう。

早く帰る理由はこれか。

黒幕名前は親の前では頭のいい、真面目で良い子でいなきゃいけないと思っているんだ。


「そのストレスが積もり積もってこんな形になったってこと…?」


そっと静かにそこから離れ、来た道を引き返す。

どんなに頑張っても認めてくれない母親に、振り向く可能性がない好きな人、そして友達もいない孤独な学校生活。


「はは…っ」


そんな理由で千鶴は怪我をさせられ、私は苦しい学校生活を送っている。

そう考えると虚しくて、可笑しくて笑えてくる。

こんな状況を他人から見たらどんな風に見えるのかな。

可哀想な子?
哀れで惨め?
同情する?

千鶴はどんな行動に出ただろう。
黒幕名前を救おうと躍起になるかしら。


「馬鹿みたいにお人好しだからなぁ…」


人を疑うことを知らないから。
そんな綺麗で純粋な千鶴を守りたかった。

とぼとぼと宛もなく歩いていると、いつの間にか千鶴がいる病院に来ていた。


「結局いつも千鶴に頼ってたんだな…私…」


今、千鶴に声をかけても返事なんて返ってくるはずもない。

そんな千鶴に毎日話しを聞いてもらいたくて立ち寄ってしまう私は、相当の弱虫。

現在のこの状況を一向に打破することができない臆病者だと、誰か笑って…。


(2012.4.8改正)











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