長編不器用な青春 | ナノ




09




平助side


あの後、どうしてもなまえと話しがたくて何度も近づこうと試みてみたがタイミングが合わず、話せずじまい。
心なしか避けられてる気がするし。


「放っておいて」


そう言って走り去った時のなまえの顔を思い出しては、自分の愚かさに眉を顰める。

そして、ついに話しをすることができたのだが「もう…私に近づかないで」と言われてからというもの、迂闊に近づけられなくなってしまった。

ところで、あの電話のときに言っていた『黒幕名前』の名前が気になって調べてみた。

黒幕名字黒幕名前は季節はずれの転校生として一時期話題になったが、彼女の超がつくほど真面目な性格が次第に周りの人々の好奇心も薄れていったみてぇだ。

きっと、初めての場所と人で戸惑ってたんだろうが…。

人間というものは何と愚かな生き物で。
つまらないと感じたら、離れていってしまう。

それが、事件直後からずっとなまえの近くにいる女。
事件前までは関わりはなかったはずだ。
同じクラスではないし、なまえの友達にもいなかった気がする。

まぁ、これだけ一緒にいたのにわかってあげられなかった俺が言えたものじゃないが。


「あいつが千鶴を階段から…」


じゃあ何故そんなやつとなまえが一緒にいるんだ?
更にはあいつを庇っている。


「脅されてる…とか」


弱みを握られてるとか。

なまえのことだから自分には関係がなくても、自分のせいで誰かが不幸になるぐらいなら自身を犠牲にするやつだ。

それだけ、優しい人間なんだ…なまえは…。


「そんなこと、わかりきってたはずなのに…っ」


誰よりも大切にしていた千鶴を傷つけられて、幼なじみである俺にも信じてもらえず、どれだけ辛い思いをしたのだろうか。

俺だったら耐えられそうにない…。


「俺が一番最低だな…」


一人、学校の屋上でぼやく。
見上げた空は皮肉なぐらい晴れ渡っている。

太陽ってあんなに眩しかったっけ…。
なまえもあれくらい眩しく笑っていた気がする。

ボケッとしていると、屋上の扉が壊れるぐらいの音を立てて開いた。

そこから出てきたのは、予想なんて誰が出来ただろう南雲だった。


「藤堂…見つけた…っ」

「な、南雲?!」


今は留学中のはずじゃ…なんでここにいるんだ?!

そう戸惑う俺の顔を見てや否や、南雲は溜め息混じりに口を開く。


「千鶴が緊急事態だからって戻ってきたんだよ…。千鶴もそうけど、この状況…どういうこと?」


南雲は千鶴同様、なまえのことも大事に思っている。
だから気づかないはずはなかった。


「なんでなまえが孤立してんの?」

「そ、れは…」


隠し通せるはずなんかあるはずもなく、当然俺に事情を聞くのが一番正確だと考える。

俺はあの日の事件のこと、その後どうなったかとか南雲に伝えた。


「で、藤堂は被害受けてないわけ?」

「あ…あぁ…」

「じゃあ犯人はお前に惚れてるってことか」

「へ…?」

「だって考えてもみなよ。恨み妬みでやったことなら周りも潰すだろ?」


俺だったらそうする、と言った言葉はスルーしよう。
そんな俺の心を読みとったのか、「例えばの話しだ」と言われてしまった。

例えばじゃなくてもやりそうだが。


「藤堂の一番近くにいるであろう女子がこんな目にあってんだ。普通、そう考えるのが当たり前だと思うけど」


犯人の狙いは俺…ってことなのか。

俺の状況説明だけで、ここまで推理できる南雲を再度見直してしまう。
だてに留学してるだけじゃない。


「それからさぁ」

「なん…」

「お前、なまえのこと信じないで犯人にしたろ」


そんなところまでわかっちゃうのかよ…。
こいつ、将来は探偵とか向いてんじゃねぇの。

そんなこと考えていたら、振り下ろされた拳に気がつかなかった。


「馬鹿もここまでくれば救いようがないね」


無表情だけど、その怒りは凄まじい。
その気迫だけで人を殺してしまいそうなほど。

何も言わない、いや言えない俺に、とうとう痺れを切らして背を向け歩き出した。


「どこ…行くんだよ…」

「決まってるだろ。なまえのところだよ」

「なまえは今…っ」


俺たちの言葉は届かない、そう言いかけたところで南雲は振り向き、胸倉を容赦なく掴み上げる。


「そうだろうな。で、仕舞いには拒否られたんだろ?…お前なんかになまえは救えない」


救えない。
その言葉が深く心に刺さる。

俺は、大切な幼馴染を守ることができなかった。
そんな幼馴染は今も独りで必死になって闘っている。
一緒になって今度こそ守ってあげたいのに…一体俺はどうすればいい…!


「おい、悩んでる暇があったら行動しろよ。まだ何も終わってないだろ」

「な、ぐも」

「今回は可愛い可愛い千鶴となまえが多大な被害を受けているからね。叩き潰してやんなきゃ気が済まない」


お前はうだうだしてればいい、なんて言われて黙ってなんかいられなくなった。

漸く目が覚めたんだ。
何へこたれそうになってんだよ俺。
間違いだと気づいた俺が助けられなくて、誰がなまえを助けるって言うんだ。


「南雲!俺も行く!もう一度なまえと話ししてみる!」

「は?藤堂が説得できるのかよ」

「やってみせる」


南雲はため息をついて屋上から出て行った。
俺もそれに急いでついて行く。

なまえを何があっても絶対助けると心に決めて。


(2012.4.8改正)










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