人と人に運命の出会いがあるように、人と物にも運命の出会いがある。
買う予定が全然ないのにいつの間にか購入済みのレシートを手にしていたり、買う予定だった物が頭からすっぽり抜け落ちていたり。
なにかに導かれているような、不思議な感覚。
わたしを望んでくれるような、不思議な出会い。
その感覚を、久しぶりに味わっている。それは新しいペンを買いに出かけた時のこと。
ペンは早々に見つかったので、あとはレジに向かうだけだった。ノートやファイルなどのカラフルな文具の横を歩いていると、レターセット売り場にさしかかった。
整頓された文具を眺めて普通に通り過ぎようとしたら、ある便せんに目が止まる。
本当にそれだけ。眺めるという行為は、他の売り場となにひとつ変わらない。
それなのに、その場で棒立ちになってしまった。
淡い桜色の便せん。
大小さまざまな花弁が舞うさまは、季節の違うこちらまで春風が漂うよう。濃淡豊かな、なん種類もの桃色が使われていて、文字を乗せるとわたしの心が桜色に染まりそうだ。
となりには牡丹の便せんがあったのに、紅のあでやかさは魅力的に感じなかった。それは、淡いはずの桜のほうが鮮やかに映るほどで、紅の濃さがぼやけて見えた。
ごくりと息を飲む。
理由はわからないけれど、これは運命の出会いだと感じた。
無意識からのささやきに身をゆだね、桜色の便せんに触れる。指先の小さな面積に、和紙特有のざらりとした手触りが伝わる。
なぜか全身総毛立つなか、指先の動きにあわせて心で丸まっていた気持ちが小さく揺さぶられた。
そして腑に落ちる。
運命的に出会ったのが、どうして便せんなのか。手にした花にこくりとうなずき、レジに向かった。
わたしはあの人に、膨らんだ気持ちを伝えなければならない。桜がいいたいのは、きっとそういうことだろう。
書いては消して。また書いて。
下書き用のルーズリーフなのだから力を抜けば良いのに、うまく気持ちを切り替えられないのがもどかしい。使い古した勉強机に、またひとつごみが増えた。
握ったペンを机に置き、思いきり背伸びをする。
自室の窓に視線を移すと、街が茜色に染まっていた。下書きを開始したのが昼すぎなので、とんでもない時間をつぎ込んだことになる。愕然とするしかなかった。
ルーズリーフを拾い上げ、再度天井を向いた。
この文章で、伝えられるだろうか。
素早く目を走らせたけれど、誤字脱字から1行内におさめる文字数、読みやすさ、文字はきれいに見てもらえるかなど、些細なことばかりが気になった。