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「――溺れもしない。ただ、沈む」

 バーテンダーは小さく、呟いた。淡々と、けれど妙に優しく、悲しそうに。
 女は答える。

「……恐怖も、生きる気も、ないからね」

 つめたく。
 バーテンダーは、女の顔を見やる。絡まない視線の先で、女は川の流れを追っていた。浮かんでこない男を見送るように、優しい眼差しをして。
 しばらくの沈黙の後、女はくるりと振り返り、バーテンダーを見た。

「帰りましょ」

 そして、車へと戻った。
 バーテンダーは、無言でそれに続き、車のエンジンをかけた。

「ねえ」

 エンジン音に紛れそうなほどかすかに、女は尋ねる。

「あなたを食べたら、誰かが探しに来るの」

 バーテンダーは、小さく頭を振る。女は安心したように笑みかけて――やめた。
 車は走り出す。
 また誰かを食べるための明日へ。


- おわり -



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