※カラ松⇒マフィア松
※トド松⇒ヤンキー松
「すっげぇカッケーから!マジぱねぇから!」
「あー、そのカラマツサン?って人がトドっちにとってどれだけスゲェかはもうわかったからさぁ、そろそろ帰らね?俺腹減った」
空はもう日が沈み始めている。
名前が腹に手を添えつつそう言うと、トド松は「はぁ!?」と信じられない者を見る目で名前を見た。
つい先程まで彼が憧れている人について語っていたからだろう。その頬は興奮のせいでほんのり赤く染まっている。
「まだちょっと薄暗くなった程度だろぉ!腹減ったなら、そこの店入ろうぜ!」
トド松が指差す先のファミリーレストランに名前が目を向けることは無く、代わりに名前は呆れたようにため息を吐いた。
「この辺の治安があまり良くねぇのトドっちだって知ってんじゃん」
彼の言うとおり、この地域は治安があまりよろしくない。
彼等が通っている不良校はもちろんのこと、知れば知るほど怪し過ぎる工場、目が合うと絡んでくるチンピラ共、一般人が関わっちゃいけない領域マフィア・・・
治安がよろしくない原因を挙げていくならきりがないが、要するに例え不良であっても命が惜しいならばさっさと帰るべきだと名前は言いたいようだ。
正論を叩きつけられたトド松は頭では分かっているものの、むっとしたのを隠そうともせず顔をしかめる。
「名前怖がりかよー!」
「俺は良いけど、トドっち激弱じゃん。俺、流石にトドっち守りながら喧嘩とか無理」
「ひっど!俺そんなに弱くねぇし!」
「あーはいはい。トドっちは強いもんねー」
「棒読み止めろよ!」
ほら、さっさと帰ろう。
名前の言葉に渋々だがトド松が従おうとした時だった。
「よぉ、ニイチャン達、ちょっと今時間あるか?」
如何にも『チンピラです』な格好の男が複数、彼等を囲んだ。
ほらな、とでも言いたげに眉を寄せる名前と、まるで時を止めたように身体を固めるトド松。
「あー、時間は無いっすわ。俺等これから、オベンキョーしないといけないんで」
「あぁ?随分マジメちゃんだなぁ、ニイチャン達」
「そうなんすよー、俺等これでも、ユウトウセイなんで」
名前は固まっているトド松をさり気なく自分の後ろに隠すように一歩前に出る。
チンピラ達の狙いなんて、たかが知れている。
ただの憂さ晴らしのサンドバック探しか、金か、まぁあまり無いが誘拐して身代金請求か・・・
どれにしたって多量なれど痛みを伴いであろうことは明白。それがわかっていながら大人しくしている程、彼はマゾヒストではない。
取りあえず一番近くにいるチンピラを殴り飛ばして、それからトドっちを抱えて、一気に逃げよう。そう頭の中で軽い計画を立て、緩く拳を握りかけたその時だ。
「おいおい、そんな餓鬼二人を囲んで、随分物騒なことしてんじゃねぇか。良い大人がだらしねぇ」
第三者の声が、響いた。
チンピラ達は「んだぁ?こちとら、オハナシチュウなんだよぉ、外野は引っ込んでな」と言いながら声のした方を見て、それから硬直した。
そこに立っていたのは青。
青のワイシャツに黒のジャケット、顔に浮かんでいるのは微笑み。
すらりと足が長い、一見するとモデルのようなその男の姿を目にしたチンピラ達の顔から血の気が引く。
「ひっ・・・あ、あんたまさか、松野ファミリーの・・・!」
チンピラの台詞に、男の顔から笑みが消えた。
その代わり、今にも射殺さんばかりの鋭い眼光がチンピラへと突き刺さる。
「・・・わかってんなら、さっさと失せろ。目障りだ」
ベタと言えばベタなのか、チンピラ達は「ひぃっ!」と声を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行った。
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