幼い頃からエレンは可愛い。
私は生まれてこの方、エレン以上に可愛い存在を発見したことはない。
いや、アルミンも可愛いけど、エレンの可愛さは別次元なんだ。
エレン可愛いな、エレン素敵だな、エレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレンエレン――
「カイト〜!」
流石は私のエレン。今日も天使。
こちらに駆け寄ってくる姿はもはや鼻血出したいレベル。でも出したらエレンに引かれるから気合で出さない。
大きくなった今でも、エレンがこうやって私に話しかけて来てくれるのは嬉しい。
世間では、幼い頃は仲が良くても大きくなれば疎遠になってしまう、というパターンもあるらしいから。
でも嬉しい反面、一つ気になるのは・・・
「あのな、カイト・・・兵長のことなんだけどさ」
「・・・あぁ、あのチビ?」
何故私の天使は私の目の前でチビの話しかしないんだ!!!!!!!!!!!
「へ、兵長に向かってチビなんて、カイトはホント度胸あるよなぁ」
「あんなのチビで十分だ。エレンを扱き使いやがって・・・」
幼い頃からエレンに憧れられやがって。
あのキラキラした眼差しを独占してやがってチビは気に入らない。
ついでに言えば、あの裁判の場での暴力行為は絶対に許さん。
「け、けど、兵長ああ見えて結構繊細なんだ!ぇーっと・・・几帳面だし!」
「あれは繊細とは言わない。ただの潔癖症だ、エレン」
「だ、だけどさ・・・んー、兵長は兵長で、いろいろ考えてやってるんだ。皆からの人望も厚いし」
「あいつの人望の厚さなんて私には一ミリも関係ないよ、エレン」
「ぅー・・・」
何故か唸り始めるエレンの頭をぽんぽんっと撫でると、エレンは顔を真っ青にして私の手を振り払った。
・・・ちょっとショック。
何故だ。俺はこんなにエレンのことを大事にしているのに!
きっとあのチビのせいだ。
俺とエレンの邪魔をするのはあのチビ以外にありえない。
「エレン。あのチビに何かされたらすぐ私に言うんだ・・・私が駆逐する」
「兵長を駆逐!?ちょっ、カイト!怖いこと言うなよ!」
「私は本気だ。いっそ、今すぐあいつを――」
「やめろってば!」
ゴッとエレンが私の額に自分の額をぶつけてきた。痛い。
「・・・ごめん、エレン」
「ちょっとは冷静になれよ。お前が兵長のことそんなに嫌ってると、俺が困るんだよ・・・」
大きなため息を吐くエレンについ首をかしげる。
「何でエレンが困るんだ?」
「え゛!?ぁ、いや・・・な、何でもない・・・」
目を逸らすエレン。何でもなくはなさそうだけど・・・
エレンに無理に追求したら嫌われちゃうだろうし、今は聞かない。今は、だけど。
「兎に角!兵長は良い人だからさ、もうちょっと歩み寄ってみろよ!」
「・・・エレンに害を与えるヤツに歩み寄る気はない」
「・・・変なところで強情だよな、お前」
失礼な。エレンを大事に想うが故だよ。
けどまぁ・・・
エレンのことがなければ、別に兵長を嫌う理由はないわけだけど。
逆に言えば、私の頭の中は大半がエレンで占めているから、兵長を嫌う理由はありすぎるわけで・・・
「やっぱり無理」
「えぇ!?」
心底落胆したような顔をするエレン。
どうしてエレンは、どんなに私と兵長を近づけさせたがるんだ。
確かに私の上司・・・主にチビに対する態度は悪いことはわかっている。
エレンは私のためを思って、それを改善させたいのかもしれない。
「・・・エレン、なんて良い子」
「ちょっ!だから撫でるなって!!!!」
・・・そんなに拒否らなくても良いのに。
再びショックを受けつつ、もう少しエレンと喋りたいなと口を開きかける――
「おい、エレンよ」
「ひッ!?へ、兵長!?」
こちらに近づく影に舌打ちをする。もちろん隠すことなく。
ちらりとこちらを見たチビは、エレンをジッと見て「おい」と言った。
エレンの怯えようが見えないのか。こんな天使を怯えさせるな!
「・・・何こんなところで立ち話してやがる。作業に戻れ」
「は、はい!!!!!」
あぁっ、エレンが全速力で離れていく。
チッ!またチビのせいで・・・
「・・・では、私も失礼します」
「待て」
「・・・・・・」
何故呼び止めるのだ、チビよ。
仕方なく離れようと動きかけた足を止め、チビの方を見る。
・・・ふんっ、やっぱりチビはチビだな。
「・・・お前は、104期のカイト・アッカーマンだったな」
「・・・はい」
こちらを見上げる形で言うチビに適当に返事をする。
「・・・・・・」
「・・・だから何ですか」
何時まで経っても何も言わないチビにイラつく。
「・・・別に。お前も作業に戻れ」
「言われなくてもそうしますよ・・・チビ」
「・・・・・・」
その場の空気が・・・というよりも、偶然傍を通っていた他の兵士たちの空気が凍るのを何となく感じた。
・・・というか、何故他の兵士たちはこんなに慌てているのだろう。
中には失神している兵士もいるじゃないか。
私がこのチビにチビということがそんなに驚くことなのだろうか。
「・・・チビ、か」
「はい、チビ」
「・・・お前は、そんなに俺がチビだと思うか」
「私に言わせれば、貴方は私の知り合いの中でトップ5に入るほどのチビです」
因みに同期のコニ―やアルミンも入ってる。もちろんアルミンに対しては馬鹿にしてるんじゃなく、可愛いな的な意味でのランクインだ。
このチビが自身の身長を気にしていようがいまいが私には関係ない。
せいぜい伸びない身長について悩んでいろ。
「・・・お前は、チビは嫌いか」
「はぁ?」
チビが嫌いか?
お前というチビは嫌いだが・・・
「・・・別に、チビは嫌いじゃない」
アルミンみたいな可愛いチビは大好きだ。
「・・・そうか」
ん?何故周囲から拍手喝采が起きているんだ?
というか、何故チビは何処か満足したような顔で勝手に去ろうとしているんだ?
もう話は終わりなのか?何だったんだ?
・・・チビの心は理解できないな。
アルミンみたいに知的なチビじゃないと、話してても意味がわからない。
いや、もちろんアルミンのことを馬鹿にしてるんじゃない。アルミンは可愛いチビだ。あれ?そもそもチビって悪い意味だったっけ?良い意味だったっけ?
何だかチビチビ言い過ぎてゲシュタルト崩壊を起こしかけた私は、取りあえず今日のエレンの可愛さについてアルミンに話しに行こうと踵を返した。
おまけ⇒