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僕が嫌われて、君が愛される平和論




普段その顔に表情が現れないモブちゃんの顔に、ほんの少しだけ“困惑”が写り込んだ。

今僕の傷の手当をしている霊幻からは無言で睨まれている。



「傷口の除霊は高いぞ」

「師匠、金取るんですか」

「当たり前だ。勝手に怪我してきたコイツに優しくしてやることはない」



むすっとした表情の霊幻。

でも手つきはあまりにも優しくて、何処か怯えているようで・・・




「霊幻・・・」

「・・・なんだ」


「ごめん」


「謝るな馬鹿。優しくしたくなるだろ」

「優しくしてよ、霊幻」


笑いながら言えば、霊幻がむすっとした表情から、呆れたような表情になった。




「馬鹿だろお前。こんなになるまで放っておくなんて」

治療が終わったらしく、霊幻は余った包帯をくるくると巻きながら言う。




「だって、自分が虐められてるって気づいたの、つい最近だし」



虐められてるって気付いたのは最近。けどわかったことがある。


今僕は、不思議なサイクルの中に組み込まれている。

循環、もしくは悪循環と言っても良いだろう。


僕が嫌われる度、あの女はどんどん周囲から愛されていく。

見事に比例していくこの状況。


彼女が愛されれば愛される程、彼女の発言力は強くなり、更に僕は嫌われるんだ。



僕は嫌われ者。

彼女は愛され者。



それが彼らの中で一致団結にして決まっている“真実”だ。



僕がどうあがこうとも、彼等の“真実”ってヤツはソレなのだ。

何が真実でも何が嘘でも関係ない。

学校という小さな社会の中で隔離された彼等にとっては、今の状況こそ事実で“正義”なのだ。




「僕、学校一の“嫌われ者”らしい」




ははっと笑いながら言う僕に、突然モブちゃんが抱きついて来た。

じんわりと傷口が開くのを感じつつ「どうした?」と問いかければ・・・



「僕は○○さんが一番好きです」

真っ直ぐに投げかけられる言葉にちょっと目を見開く。

あぁ、まったく・・・



「モブちゃんにはかなわないなぁ・・・」

だから好きなんだよなぁ、と思う。


空気が読めないのを本気で悩んでて、ちょっとどころか大分変ってて、けど誰より優しい子で・・・





「良い子だねぇ、モブちゃん」

ぐりぐりっと頭を撫でれば、モブちゃんがちょっと俯いた。



「・・・まぁとりあえず、さっさとどうにかした方が良いと思うぞ、俺は」

「いいよ別に。僕にはモブちゃんがいるからね」


へらっと笑った僕は、モブちゃんを抱き締めて軽くキスをした。

ブワァッと真っ赤に染まるモブちゃんが可愛くて可愛くて仕方ない。


それを見ていた霊幻が詰まらなさそうな顔をする。




「モブだけかよ」

「んー?霊幻、嫉妬ですか?」


「おぅ」

霊幻がモブちゃんを退かし、ドカッと僕の膝の上に跨ってくる。




「一応怪我人なんですけど」

「知ってる」


「足も怪我してます」

「知ってる」



「・・・仕方ない人だなぁ」

僕は苦笑しながら霊幻の唇にキスをした。


モブちゃんみたいに軽くだけするつもりだったのに、霊幻は調子に乗って首に腕を回してきて更にキスは深くなる。




「○○・・・」

「甘えた声出しても駄目ですよ。モブちゃんの目に毒」


ちょっと艶っぽい声を出してきた霊幻を問答無用でどけると「ちぇっ」と詰まらなさそうな声を上げたが仕方ない。教育上良くないし。というか僕も中学生だし。





「さてと、治療もして貰えたし、そろそろ帰ろうかな」

「え、もう帰ってしまうんですか」


心なしか残念そうなモブちゃんの声に僕はにっこりと笑う。




「此処にいたら、霊幻に仕事の手伝いさせられるからね」

「時給300円だぞ」

「せめて時給500円にして出直しなさい」


僕は冗談っぽく言いながら事務所の扉をゆっくり開いた。







「○○さん」

「何、モブちゃん」


「本当に・・・」

何時の間にか背後にいたモブちゃんが、ぎゅっと僕の手を握る。

あぁ、困った。これでは帰れない。




「・・・本当に良いんですか、○○さん」

「んー?」


「このままで・・・」

このまま、というのは・・・



僕が嫌われ、僕が虐められているという状況だろうか。




「別に構わないよ。僕、彼等のことどうでも良いし、それに・・・」

僕は笑みを深めながら言う。






「――僕が嫌われて彼らがそれで満足するなら、別にそれでも良いかなって」






勝手に満足させてれば良いんだ。



(彼等がそれを“平和”だと信じてるなら仕方ない)







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