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触れてはいけない境界線




僕は沈黙を貫いていた。



何を言っても何をしても、僕が嫌われ者という事実は変わらないわけで・・・

何故こんなことになったかは知らない。もしかしたら覚えてないだけかもしれないが、正直どうでも良いわけで・・・

だからこそ今まで“何もしないであげていた”わけで・・・

なのに――





「・・・モブちゃん?」


「ぁ・・・○○、さん?」

「何してるの、モブちゃん」



僕の目の前にある光景は何だろう。


モブちゃんが倒れてる。

その周りには――僕を虐めているテニス部の奴等がいた。





何で?モブちゃん、超能力使えるでしょ?相手なんてすぐやっつけられちゃうでしょ?

あぁ、そっか。モブちゃんは優し過ぎるから、一般人に能力使えないんだね。悪霊だったら容赦なく消滅させるのにね。


そもそも何でモブちゃんが此処に・・・テニスコートなんかにいるの?

もしかしてわざわざ僕の様子を見に来てくれたの?


あぁ、そんな、まさか、いや、ほんとに・・・







「○○さん、ごめんなさい、僕・・・」


モブちゃんの唇が切れてる。痛そう。

殴ったのは彼らのうちの誰かだけど、きっと皆モブちゃんに手を出してる。




「モブちゃん・・・」

僕は、自らの心が冷え切って行くのを感じていた。



「ごめんなさぃ、○○さんを、これ以上傷つけるのを、止めて・・・もらいたくて」



だから直接言いに来たの?

あぁ、モブちゃん・・・


そんなことしなくても良かったのに。僕は別にこのままでも良かったのに。“さっきまで”は。

・・・あぁ、まったく――





コイツ等は何をしているのだろう。




今まで僕は黙っていてあげたのに。

今まで僕は何もしないでいてあげたのに。

それが彼等にとっての真実で平和であるからこそ、僕は無抵抗だったのに。

なのになのになのになのになのになのになのになのになのに――



彼等は自ら、超えてはならない境界線と飛び越えようとしている。



「・・・・・・」

プツンッと何かが切れた感覚がした。



それと同時に湧き上がってくるのは――高揚感。




「あ、はは・・・」

「・・・?」





「あはははははは、ヒヒッ、クッ・・・あはははハハハハはははははははハははッ、アヒッ、ヒヒヒヒッ、クハハハハハははハは――ッ!!!!!!!!!」





あぁ、笑いが止まらない。

この状況があまりに馬鹿らし過ぎて。


久しぶりにこんなに大声を上げて笑ったかもしれないな、と僕は思う。



僕は笑顔のままつかつかとモブちゃん達のところへ近づき、モブちゃんの一番近くにいた赤髪のヤツを殴り倒した。

周りがギャーギャー言っているが気にしないで、僕はモブちゃんを抱き上げた。




「モーブちゃん」

「・・・はい」


「帰ろっか」

「はい」



体力全然ないのに無理しちゃったからか、モブちゃんは自分で歩くのも億劫らしい。

モブちゃんを抱き上げたまま僕はにこにこ笑い、そのままテニスコートを後にした。














「何で来たの」

「○○さんが心配で・・・・・・怒ってますか?」


「うん。怒ってる」

「・・・・・・」


モブちゃんが目に見えて落ち込んでしまっているのを見て、僕は苦笑を浮かべた。

あぁ、モブちゃんが僕のせいでストレスを感じてしまってる。これが爆発したときが物凄く大変なのに。




「モブちゃんを怒ってるわけじゃないよ」

「・・・?」


きょとんとしたモブちゃんに出来るだけ優しく微笑みかけながら「本当にごめんね」と言った。




「悪いのは僕さ。優しいモブちゃんが心配して此処にくるかもしれないって、少し考えればわかったことなのに」

「・・・ごめんなさい」

モブちゃんが目を伏せる。


正直言って、人に超能力を向けられない優しいモブちゃんは、超能力がなければとても弱い。

モブちゃんは言葉で何とか説得して、それが無理ならちょっと超能力で驚かせてやろうとでも思ったのかもしれない。


けれど思った以上に相手は言葉よりも暴力に頼ったせいで、モブちゃんの予定は大分狂ったのだろう。




「ほんと・・・優しいなぁ、モブちゃんは」


抱き上げたままのモブちゃんと共に学校を出る。

部活?そんなの知らない。




「でも、律君に怒られるのは怖いなぁ。モブちゃんにこんな怪我させちゃったし」

「○○さんのせいじゃないです」


兄を物凄く大事にしている律君は良い子なんだけど怒らせると確実に怖い。

モブちゃんが「律には僕から言って置きます」と言ったのに僕は「よろしく」と笑った。


人通りは少ないけど、周囲はやはり人が歩いていて、モブちゃんを抱き上げたまま歩いている僕は少し注目される。

モブちゃんが目に見えて怪我をしているからそれを運んでいるのも一目瞭然だし、特に変な目では見られなかったが。



モブちゃん、恥ずかしがってないかな?と思った時・・・キィッと一台の車が停まる。


運転席の窓が開けば、じっとりとした視線を向ける見知った顔。






「おーい。男が男抱き上げて歩くの、視界的に暑苦しいぞ」

「モブちゃんはほっそりしてるから無問題です。霊幻」


「・・・さっさと後ろ乗れ」

「はいはい。わざわざ迎えに来てくれて有難う、霊幻」


モブちゃんが何時まで経っても事務所にこないことで霊幻は僕の所にいると気づいたのだろう。

流石、長年インチキ霊能者続けているだけの頭のキレはある。




霊幻は後部座席に乗った僕とモブちゃんに「馬鹿共が」と言いながら車を発進させた。



「傷の除霊は高くつくぞって言ってるだろう」

「とか言いつつ、毎度金は取らないでいてくれる霊幻は素敵だと思いますよ」


「おだててもたこ焼きぐらいしか出ないぞ」

「あ、たこ焼き出るんだ」


おやつはたこ焼きかぁーと笑う僕の服の裾を、きゅっとモブちゃんが握る。





「・・・怒ってますか」

僕はその言葉に笑みを深める。


疑問形ではないその質問は、もはや確信で・・・





「んー?どうしてそう思うの?」

「・・・ぃえ、何でもないです」


モブちゃんがギュッと抱きついて来るのを笑顔で受け止めていると、霊幻が運転を荒くしながら「後で俺にもな」と言って事務所へと向かった。



(触れたら“静かなる暴君”が暴れ出すぞ)







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