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きれいな ことば




《シャチSIDE》


船長が変な男を連れて来た。


ひょろ長い男で、腕っぷしも弱そうで、右手には常に絵筆を握っていた。



船に乗り込んで挨拶をするかと思えば、俺等なんて全く無視して甲板に大きなキャンバスを置いた。

愛想の無いヤツだったけど、きっと話せば馴染めるだろうと思った俺は、最初こそアイツに沢山話しかけた。





『なぁお前、絵描きなのか?』
『俺はシャチって言うんだ』
『此処のコックの料理はうまいぞー。一緒に食おうぜ』
『・・・なぁ、聞いてる?』
『お前さ、もう少し愛想良くすればどうだ?このままじゃお前、他のクルーに嫌われるぜ』





なのにアイツ、俺の声にぴくりとも反応しない。

それどこか俺の存在を完全に無視するんだ。


まるで俺が壁に向かってしゃべっているかのような感覚を覚えて、だんだんムカついてきた。






『ちょっとは返事ぐらいしろよな!!!!』






バンッとキャンバスを叩くと、まだ絵の具が渇いてなかったのか俺の手に絵の具がついた。



ヤバイ、と思った。

イラついたからって、絵を滅茶苦茶にする必要なんてなかったのに。


けれどアイツと来たら、俺がぐちゃぐちゃにしてしまった部分にかぶせるように、綺麗な花を描いた。





すげぇ・・・と思う反面、悔しかった。


まるで、俺が何をしても無駄だと言われているような気分だった。




それから俺は、アイツにあまり喋りかけなくなった。

喋りかけるのが嫌になったわけじゃない。ただ、不毛だなって思ったんだ。


ペンギンは「その方が利口だ」と言う。

じゃぁさ、ペンギン・・・








――船長は利口じゃないのかな。







そんな質問をすると、ペンギンは困ったように眉間にしわを寄せるんだ。





アイツを引っ張って連れて来たのは船長。


新入りの癖に雑用も何もしようとしないアイツを叱らないのも船長。

毎日絵ばかりを描き続けて誰も見ようとしないアイツのピッタリ1メートル半に立っているのも船長。

振り向かないアイツに俺よりもずっと長く話しかけているのも船長。




他のクルーはもうアイツに見切りをつけた。


どうせ喋りかけても何も返ってこないんだから、もういっそのこと風景の一部にしてしまえば良い。

そう考えるのは簡単で、けれど俺はそれはちょっぴり悲しいことだと思った。




何でアイツが俺達を見ないのかはわからない。


わからないけど・・・







「・・・あぁ、今日もやってる」


船長がアイツを見つめてる。



その表情は穏やかでいて悲しそうで、辛そうでいて楽しそうで・・・



馬鹿な俺でも一目でわかる。





船長はアイツに恋してる。





だからアイツを船に乗せて、船から降ろさないんだ。

愛しても何も返ってこないであろう相手なのに。





「なぁ、○○」


酷く愛おしそうな、酷く悲しそうな声でアイツの名を呼ぶ船長。




・・・船長。


その恋は不毛じゃないんですか?

そんな男の何処が良いんですか?



ねぇ、船長・・・









「○○・・・好きだ」








振り向かないアイツの背中に船長は言う。



・・・あぁ。

俺達の船長は、どうしようもなくアイツの事が好きなんだ。




“好きだ”


その言葉がこんなにも不毛な言葉だとは知らなかった。

その言葉がこんなにも・・・






「・・・綺麗だなぁ」


綺麗だとは知らなかった。





きっと船長が真っ直ぐにアイツを愛してしまっているからだろう。

屈折の一切ない、真っ直ぐの愛の言葉。


だけどアイツにはそのほんの少しも届いてない。





あぁ・・・

やっぱり不毛だ。




そう思うと同時に俺は、船長をそんな不毛な恋へと導いたアイツの事が憎らしくなった。



きれいな ことば







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