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「なぁ、サッチ。アイツは誰だ?」
「あ?あぁ、アイツか。アイツはリヒトって言うんだ」
「へぇ、おーい――」
「止めとけ」
「何でだ?」
「アイツ、昔は良いヤツだったんだけどなぁ・・・何時からかわからねぇが、言葉が通じなくなっちまったんだ」
「?」
「・・・まぁ、簡単に言えば、頭が可笑しくなっちまったらしくってよぉ。話しかけない方が良い」
「・・・へぇ」
じゃぁ何で船に乗ってるんだ?と尋ねれば、親父の恩恵だ、とサッチは笑った。その笑みは苦笑だった。
すると、ふと男がエース達を見た。
見てるこっちがイライラするような、ニタニタした笑みを、男は浮かべて近づいてくる。
「おーやー?サッチぃ、ソイツは誰だぁ?」
「・・・よぉ、リヒト」
「俺、エースってんだ。よろし――」
「反対」
「・・・は?」
「俺は反対だぁ!コイツ、親父を殺そうとしてたヤツだろぉ?こんなヤツ船に乗せるなんて、俺は反対だからなぁ!あーあ、気色わりぃ、手前なんて、すぐ降りちま――」
バキッ
サッチに殴り飛ばされたその男を、エースは無言で睨みつけていた。
床に倒れた男は、ケタケタと狂ったように笑っていた。→戻る