「ミョウジ屋!!!!!」
「わっぷ!?」
突然背後から何者かに追撃された身体が倒れそうになるのを、何とか足の力で耐える。
背中に物凄い勢いで頬擦りされているのがわかる。
「・・・トラファルガー」
声とその行動からすぐに何者かと導き出した俺は、静かに相手の名を呼んだ。
「ローだ」
短くそう訂正するトラファルガー。
ただの名前だろ、と言いたいところだが、そう言ったらまたコイツが騒ぎ出しそうでそこはスルーする。
「・・・じゃぁロー、何故お前は何時も突然俺に飛びついて来るんだ」
俺が名前を呼んだ瞬間、至極嬉しそうにするロー。何だってこの男はこんなにも俺に懐いてしまったのか。
初めてであったのはシャボンディー。
悪魔の実の能力者であるコイツと、能力者でこそないが体術と覇気を駆使する俺は、偶然・・・そう。偶然出会った。
『その能力、格好良いじゃないか。トラファルガー・・・と言ったか?初めまして、俺はナマエ。ミョウジ海賊団の船長だ』
素直に能力を褒めた。
挨拶をして、手を差し出した。
でもあっちは、俺の手を掴むことなく、ふいっと顔を背けてしまって・・・
あぁ、あっちには悪印象だったか?何て思っていたのにこの状況。
次会った時には「ミョウジ屋〜!」と嬉しそうに飛びついてきて、正直焦った。
まぁ今となっては、焦りよりも呆れの方が大きいのだが。
「この広い海路、同じ島で巡り合うなんてそれこそ運命を感じないか?」
「何乙女チックなこと言ってるんだ。お前はどちらかと言えば現実主義者なイメージがあったんだが?」
「もちろん、ミョウジ屋との運命しか信じないさ」
何処か誇らしげな声で言うローに俺はため息。
ほんと、何をどうしたらこうなるのだろう。
「ロー・・・お前はどうして毎度俺のところへ来るんだ」
「ミョウジ屋が俺の心を射止めたからだ」
「その言い方やめろ。お前の格好良いイメージがどんどん崩れていく」
シャボンディーでの戦いっぷりには、素直に関心した。
悪魔の実の能力をフル活用しながらも、その動きに一切のムダもなく・・・見れば船員たちにも慕われているようだったし・・・同じ海賊、船長として敬意を払っていたのだが・・・
「そうか。俺のことを格好良いと思っていてくれたのか、それはやっぱり脈あり?」
「ねぇよ。というか止めろ、服に手を突っ込もうとするな。此処が何処かわかってるか?」
「道のど真ん中だな」
無駄にキリっとした顔で返事しやがって・・・
「わかってるんならやめろ」
「じゃあホテルへ・・・」
「手前はアホか」
耐え切れずローの頭を叩くと、ローは驚愕の表情を浮かべた。
・・・流石に叩かれればキレるか?
俺は何時戦闘になっても良いように神経を研ぎ澄ませ――
「・・・SMの趣味があったのか。予想外だな」
俺は鈍器で頭を叩き割られたような頭痛を感じた。
「任せろ、ミョウジ屋。俺はお前がドSであろうとも、お前を愛する。というか、俺がドMになれば良いだけの話だ」
「止めろ。ハァハァするな、顔を赤らめるな、モジモジするな、ズボンのチャックに手を伸ばすんじゃねぇ」
もう駄目だなコイツ。ただの変質者じゃねぇか。
「ミョウジ屋が男前すぎて辛い」
「俺はお前が変態すぎて辛い」
「褒めるなよ・・・照れるだろ」
「褒めてねぇよ」
俺は大きなため息を吐いて、背中に抱きついたままのローを身体から放そうと・・・おい、何て力だ。全然腕がほどけねぇぞ。
「離せ」
「嫌だ」
「俺はそろそろ出航するんだ。船員たちが俺を待ってる」
「そんなの知るか」
人の都合も知らないでコイツは・・・!
「俺は今この島に来たばかりなんだ。なのにもうミョウジ屋と離れる?無理に決まってる」
「こっちにも予定があるんだ」
「じゃぁいっそお前が俺の船に乗れ」
「船長が船を降りたらミョウジ海賊団が終っちまうだろうが」
その「何これ名案!」って顔するの止めろ。
「嫌だ。ミョウジ屋を連れて帰ってくるってベポと約束した」
「ベポってあの白熊か・・・って!無責任な約束してくるんじゃねぇよ」
「『うん、期待してないけど待ってるね』って言ってくれた」
「完全に呆れられてるじゃねぇかよ!」
コイツ、船長として大丈夫か?
俺は唐突に心配になってきた。誰の?もちろんコイツの船の船員たちのだ。
「いい加減離れてくれ、ロー」
「・・・・・・」
「おい、聞いてるのか?」
「・・・グスッ」
泣 き 出 し た だ と
「何でそこで泣くんだ!おい、ちょっ!周りに変な目で見られるだろ!ただでさえお前が抱きついてきて周りがヒソヒソやってんのに!」
俺は羞恥心で死にそうだと言うのに!
「ぐすっ・・・そんなに、俺と一緒は・・・ぃ、嫌なのか、ミョウジ屋ぁ・・・」
「泣くな泣くな!お前のキャラ絶対可笑しいぞ!」
俺は無理やり身体を反転させ、目の前にくるローの涙を拭ってやる。
そうすればローは「ミョウジ屋の手が俺の顔に触れた」と嬉しそうに笑う。
・・・無垢な餓鬼みたいに笑ってんじゃねぇよ!
「今回はタイミングが悪かったってことで諦めろ」
「・・・・・・」
「・・・次、同じ島で顔合わせたら、一緒に酒でも飲んでやるから」
「え?酔った勢いでそのままホテルへ行ってくれるのか?」
「言ってねぇよ!!!!!」
俺はベシッとさっきよりも強い力でローの頭を殴り、流石に痛かったらしいローの手が緩んだところを腕の中から抜け出す。
あ!とか心底残念そうな声を上げるローなど無視して、俺は「あばよ」と走り出そうと――
「シャンブルズ」
何時の間にか再びローの傍に戻っていた。
「・・・お前はふざけてんのか」
仕舞いにはお前の肋骨を俺の蹴りでバッキバキに折るぞ、とか思いながらローを睨む。
ローは「だって」などと言いながら俺の服を掴んだ。
「・・・もう少し、一緒にいたかった」
「・・・・・・」
もう誰かコイツをどうにかしてくれ!と思いながら、俺は仕方なくローの頭に手を置いた。
「言っただろ。次にって」
「・・・・・・」
「わかったわかった!次会ったら、俺の方から声をかけてやるよ」
「!本当か」
「あぁ。俺の方からお前に声をかけて、酒を飲みに誘ってやる」
「あぁ!」
心底嬉しそうな顔をするローについつい毒気を抜かれてしまった俺は「今度こそあばよ」と言いながら歩き出した。
今度は能力を使われなかったため、俺はそのまま自らの船へ。
さぁ・・・
「しばらくは静かになるな」
この広い海、どうせなかなか会うことはないのだから。
おまけ⇒