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綾小路君の吹くトランペットの音が好きだった。




なのに、綾小路君はある日を境にトランペットを吹かなくなった。それどころか、ブラスバンド部すら止めてしまった。


綾小路君は何時も真っ青な顔をしていて辛そうだ。

可哀相に・・・それもこれも、きっと何時も綾小路君を探してるアイツのせいだ。




綾小路君のために何かしてあげたい。

けれど僕は綾小路君のことを一方的に知っているだけ。クラスだって違う。出来ることなんて、何にもない。


それを自覚するたびに僕の大きなため息が僕ただ一人の部室に響く。







本来今日は部活の活動日ではないけど、部長としてやっておきたい仕事もある。


もうしばらくすれば、ブラスバンド部の練習する音が窓の外から聞こえてくることだろう。

けれどもう、その中に綾小路君のトランペットの綺麗な音はしないんだ。



「・・・はぁー」

再び、今度はさっきよりも大きなため息を吐いたその時だった。




バンッ!!!と突然部室の扉が開いて、僕はビクッと肩を震わせる。

あぁそういえば鍵を閉め忘れていただとか、そんなことを思いながら扉の方を向けば――






「はぁっ、はっ・・・わ、るい、匿ってくれないか?」






「あ、綾小路君?」

そこには息を乱した綾小路君がいた。




「頼むっ、『いない』と言ってくれ」

「え、えぇっ?」


綾小路君は部室の奥へと隠れてしまって、意味の解らぬまま僕は開けっ放しの扉を閉めに行った。






「ゆっきぃぃいいっ」

その時だ。


どすどすという地響きと共に、僕があまり良く思わないアイツが走ってきた。





「ゆっきー知らない!?」

「・・・っ」


嗅覚は一般人並みの僕でもわかる。これは臭い。

アイツこと大川がひぃっふぅっと僕の目の前で息を整えている。・・・臭い。





「・・・いいや、知らないよ」


さっき綾小路君が言っていた言葉の意味を理解する。

匿うというのは、どうやら大川からだったらしい。




「そうなのぉ?けど、こっちに走って行くのが見えたんだぁー」



くねくねとしながら言う大川のなんと悍ましいことか・・・

コイツが綾小路君を苦しめているのか。全部全部、コイツのせいで・・・!!!





「この部屋にいると思うんだ――」

僕の横をすり抜けて部室に入ろうとする彼を僕はギロッと睨みつけ、「待て」と自分じゃないような低い声を出していた。


綾小路君を匿いたいって思いもあったけど、勝手に部室に入ろうとするこの部外者が非常に気に食わない。






「・・・君、此処が何処だかわかっているのかい?部員の許可も無しに入ろうとするなんて、非常識にも程があるんじゃないかな?この部屋は僕以外いないから、他を当たってくれ」

僕の威圧的な態度と低い声が聞いたのか、大川は大きな声で「酷いよぉ!!!僕はただ、ゆっきーを探してただけなのにぃ!!!」と泣きながら去って行った。


・・・僕が虐めたような雰囲気だけど、仕方ないじゃないか。僕だって怒る時ぐらいある。






大川が去った後、僕は大きくため息を吐いて部室の中へと戻った。

もちろん扉はしっかりと閉じ、鍵まで閉めた。


これであの大川が入ってくることはないだろう。




「ぁ・・・」

部室の隅っこで、綾小路君が小さく蹲っていた。




「だ、大丈夫?」

「ぅ・・・君は・・・?」


「名字っ、名字名前。三年C組なんだ」

「名字か・・・有難う、匿ってくれて」


その言葉に、何だかもういろんなことが報われたような気分になる。



綾小路君が僕の名前を!それも、感謝してくれてる!!!

僕は喜びでついつい顔がニヤケそうになった。綾小路君に気持ち悪がられたくないから我慢したけど。





「しばらく此処にいると良いよ。まだアイツがその辺うろうろしてるだろうから」

そう言いながら僕は部室にある戸棚の中をごそごそと漁る。


戸棚の中は、部員の小腹がすいたとき用に用意されたお菓子やジュースで溢れかえっている。

ちなみに部員は好きに食べて良いことになっていて、少なくなったら皆自主的に補充を行っている。






「スナック菓子とかあるけど、何か食べる?ジュースもあるよ」

「・・・飲み物を貰えるか?」


綾小路君の言葉に「わかった」と頷いて紙コップとジュースのペットボトルを用意した。

後日、代わりのジュースを戸棚に入れておこう。





「此処に座って」

パイプ椅子を指差しながら言えば、部室の隅にいた綾小路君は恐る恐ると言った風に立ち上がり、その椅子に座った。


そんな彼の目の前の長机にジュースの入った紙コップを置く。

綾小路君は「ありがとう」と言いながらそれに口をつけた。



相当喉が渇いていたのだろう。綾小路君の喉が大きく上下し、紙コップの中はすぐに空になった。

水分を取って大分落ち着いたのか、綾小路君は大きく息を吐いた。







「本当に有難う、助かった」

「ううん。気にしないで」


お礼なんていい。

僕は綾小路君の役に立てたってだけで十分なんだから。




「此処は部室って言っていたが・・・何部なんだ?」

「入口に書いてあったんだけど、慌ててたみたいだし見てないよね・・・此処の部室は、天文学部のなんだ」


ほら、と部室の壁にや天井に貼ってあるポスターを指差せば、綾小路君は「本当だ」と頷いた。





「他の部員は?」

「今日、本当は活動日じゃないんだ」


「じゃぁ何で・・・?」

「天文学部って、星を見る部活でしょ?星が出るのって夜なんだけど・・・夜の部活動って、保護者や先生達の許可がいるんだ。そのために、活動許可証の作成が必要なんだ」


「大変なんだな・・・お疲れ様」

「ぁ、有難う」


お疲れ様って言われた。

今ので疲れがほとんど吹っ飛んだ気がする。





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