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「けど、凄かった」

「え?何が?」


「大川を追い出す時の声と今の声、全然違うし。さっきはこう・・・威圧的だった」



「ぁっ、ぇ、えと・・・部室に勝手に入られそうになって、ちょっとムッとしたというか、なんというか・・・」

あぁっ、綾小路君に悪い印象を持たれたらどうしよう!



「そ、それに・・・あまり部員以外には知られたくないものとかもあるしね・・・」


お菓子とか、いろいろ。

部員の中にはゲームを持ちこんでる子もいるらしいし。持ち物検査はしたことないから、詳細は知らないけど。




「そうだったのか・・・すまない、許可無しに入ってしまって・・・」

「い、いいんだよ!困ってたんだから・・・特別に・・・そ、そう!綾小路君は入らなきゃいけない理由があったんだから、特別に許可するよ!僕が許可すれば、僕がいない時でも部室に入れるよ!ぁ・・・合い鍵とかいるかな・・・?」



「合い鍵?」

「ぁっ、ご、ごめん・・・迷惑だった?」


「迷惑なわけない。この部室、全体的に良い匂いだし・・・合い鍵が貰えるなら、是非貰いたい」


「他の部員にはそれとなく言って置くけど、内密にね?部長権限だから・・・」

「部長だったのか」

ちょっと驚いた顔をする綾小路君に曖昧に笑う。




「三年生が僕ぐらいしかいなくってね・・・仕方なくだよ」

「いや。部活が無い日にまで真面目に活動してるんだ。責任感があって、ぴったりだと思う」


「そ、そうかな・・・」

つい照れてしまう僕に、綾小路君がくすっと笑った。

綾小路君が笑ってくれたことが嬉しくて嬉しくて溜まらない。





「そ、そうだ。ジュースのお代わりとかいる?」

「あぁ。貰う」


僕はにこにこしながら綾小路君の紙コップへと手を伸ばす。






「ん・・・?」

すると、綾小路君がぴくっと反応した。

どうしたのかとその場で固まっていると、綾小路君が席を立って・・・




「え?」

突然綾小路君が僕に近づいてきた。


一気に近くなった距離に僕はドキドキする。





「何か・・・名字、良い匂いがするな・・・」

「えっ?そ、そうかな・・・」


綾小路君は匂いに敏感だと聞いたから、何時も念入りにお風呂に入っている。そのおかげかもしれない。


匂いに敏感な彼から匂いを褒められたことが嬉しくて、何だか頬が熱くなった。

綾小路君がすんっと僕の傍で息を吸い込んだ。



「・・・うん。良い匂いだ・・・落ち着く」

見れば、綾小路君が安心したように微笑んでいた。


もちろんマスクのせいで見えるのは目元だけだけど、それでも十分今の綾小路君の表情は理解出来た。

それと同時に、僕は一気に幸福感で満たされた。




あぁ、この時間がずっと続けば・・・

僕はぐっと幸せを噛みしめた。






〜♪

「ぁ・・・」




窓の外から、ブラスバンド部の演奏が聴こえてきた。あぁ、もうそんな時間か。

前までは、この中に綾小路君の綺麗なトランペットの音も混ざって聞こえていたのに・・・





「此処、ブラスバンド部の練習が聴こえるんだな」

「あ、うん・・・昼間の活動は暇だから、よく聴いてたよ」


「じゃぁ、僕の音も聞こえてたかもな」

「も、もちろん!綾小路君の演奏、すっごく上手だから、一番よく聴こえてたよ!」



あ。

「へぇ。そうだったんだ」



「ぁっ、えとっ、あ、あんまりに綺麗な演奏だったからっ、べ、別に変な意味じゃなくって、その――」



「有難う。とっても嬉しい」

「ぅ、うんっ」


あぁ、綾小路君が笑ってる。嬉しい。幸せ。もう死んだって良い。






「名字って、分かりやすいな」

「え!?な、何が!?」



「ふふっ・・・さぁ。秘密」

くすくすっと笑う綾小路君は可愛いけど、何が分かりやすいのかは気になる。




「お、教えてよ」

「秘密って言っただろ?」


「ぅうっ・・・僕、何か変なことした?」

「ううん。してないしてない」


笑ったまま言う綾小路君。本当かなぁ・・・




「もう大川も何処か別の場所を探してるだろうし、そろそろ行くよ」

「あっ・・・そ、そっか・・・」


もう行っちゃうのか、と落ち込む。

すると綾小路君が何故か「ぶっ」と噴き出した。




「ど、どうしたの!?」

「ふふっ、いや・・・ははっ、ふふっ・・・何でもない。大丈夫、また今度来るから」


「そ、そっか!あ、合い鍵渡すね」



僕は部室の引き出しの中から呼びの鍵を出して綾小路君に渡す。

綾小路君は「有難う」とそれを受け取って、ポケットに入れた。






「くれぐれも内密にね」

「うん。僕と名字の秘密」


「!・・・う、うんっ、そうだね」



僕と綾小路君の秘密・・・

何だか、凄くドキドキしてきた。


綾小路君は小さく笑ったまま「それじゃ」と部室を出て行った。

部室に一人残された僕は・・・







「あ、綾小路君と・・・喋っちゃった」

ぱぁっと顔に笑みが浮かぶのを感じた。



「〜〜〜っ、綾小路君が笑ってたっ、良い匂いって言われたっ、有難うって言われたぁっ」

興奮気味に机を叩く僕。


・・・良かった。他の部員がいなくって。





「・・・へへっ」

次に綾小路君が来たとき、どんなことを喋ろうか。


僕はいつ来るかも分からない綾小路君を想って、沢山の空想をした。








ヘタっぴな隠し事







「・・・ふふっ」

綾小路行人は、ポケットに入った鍵を布越しに撫でた。


自分が笑ったり何かを言う度に嬉しそうにになったり焦ったようになったりする名前。

綾小路だって鈍感ではない。そんな名前が自分を好きなんだということぐらい、簡単に分かった。




「・・・あんなわかりやすい反応されたら、意識しちゃうじゃないか」

ふふっと再び笑った綾小路。そんな彼の頬がほんのりと赤いことを知る人は、誰もいない。




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