どうも。
“淫奔”を職能としてる、下級悪魔のアザゼル名前です。
どうも自分、あのアザゼル篤史に成り代わってしまったらしく、今日まで生きてます。
生前はしがない学生で、ある日車にこう・・・ドーンッと勢いよく撥ねられたと思ったら、突如おかんの股からこんにちはしてたんだ。凄いだろ?
正直、生前はまだまだ性行為に夢を見ていたい子供だったんだ、俺。
それなのに、生まれたら淫奔?冗談キツイ。
けれど俺は長男だし、必然的にグリモア継いじゃうし・・・ぁー、嫌だ嫌だ。
悪魔になって初めてヤった時、俺はいろんなものに絶望したね。
あぁ、なんだ。性行為って、こんなモンだったんだ・・・って。
絶望っつぅーか、失望の方が大きかったかも。
こりゃ、淫奔の悪魔として終わってるな。うん。
けどさ。俺はそれでもアザゼルなわけだ。
背に腹は代えられないし、性行為はちゃっかりしてる。
俺からシてるんじゃない。あっちが勝手に誘ってくるんだ。だからヤる。
楽しくはないけど、まぁまぁ気持ち良いのは確かだし。
おかげ様で、淫奔の悪魔らしく頑張ってる。
頑張ってはいるけど、俺の性格上、そこまでがっつくタイプじゃない。
そんなタイプじゃないからこそ、俺はある一つの決断をしていた。
――よし決めた。“演技”しよう。
成りきるんだ。
アザゼル篤史を完全に再現するんだ。
原作じゃ痛い思いも沢山するだろうけど、それでも俺は演技を頑張ろうと誓った。
そうじゃないと、俺は淫奔の悪魔失格になる。確実に。
だってさ、ほら・・・『淫奔の悪魔なんて、もう止めて良いんだよ?』なんて言われた日には、俺は喜んで隠居しちゃうと思うし。
さっさと適当なところで餓鬼作って、ソイツに俺の仕事次いで貰わないとなぁ・・・何で俺、一人っ子に生まれちゃったんだろ。弟とかいないわけ?ソイツに押し付けたかったよ、全力で。
まぁいろいろあったけど、俺はこの演技のおかげで、見事同級生たちに“たらしこむしか能がない弱いヤツ”っていうレッテルを張って貰えた。
頑張ったよ俺・・・人としていろいろ終わってるかもしれないけど、別に良いし。だって俺、もう悪魔だし。
脳内では性欲ゼロだけど、それっぽい発言しとけば俺は馬鹿だと思ってもらえるし。
アハッ、俺ほんと頑張り屋さんだな。誰か褒めろよ。原作守ってやってんだぞ。
・・・うん。俺、正直病んじゃいそう。というか、性行為マジつまんねぇ。言葉で語ろうぜ。身体じゃなくて、言葉でさ!
ま、俺があがいても無駄だけどさ。
「ぉ・・・?」
俺は誰かが自分を呼び出すのを肌で感じ、一気に“演技モード”に入った。
「仕事だ。アザゼル」
ほーっら。
我らが御主人のアクタベさんだー。
今日も怖いなぁ。けどさ、今の俺は演技中。頑張らなきゃ・・・
「えぇー!突然呼び出して、久しぶりの一言も無いなんて、酷いですやん、アクタベはぁーん!」
バキッ
「グフォッ!?」
うぅぅぅううッ、痛い!果てしなく痛い!けど、我慢だ!我慢しろ、俺!
「ぃ、痛いやないの、アクタベは――・・・は、はぁーい、仕事ですねぇ、仕事、わし、頑張っちゃおうかなぁー、なんて・・・」
・・・冗談抜きで怖いな、こりゃ。
手抜きしたくないけど、そうしないと俺のレッテル剥がれちゃうしなぁ・・・よしッ、頑張って演技しよ!
「アザゼルさん。今日のイケニエです」
「おぉ!おおきに、さく――・・・って、なめとんのか、この不細工女ぁ!!!!!何で白米やねん!せめてカレーにしとけや!!!!」
「ぇえー・・・?だって、さっき呼んだベルゼブブさんが全部食べちゃって・・・」
マジでか。これには、演技抜きで吃驚だぞ。
というかベルゼブブはもう来てたのか。
「今日のカレーもなかなかでしたよ」
ひょこっと佐隈さんの後ろから出てきたベルゼブブが、ケフッとげっぷをする。
「なかなかでしたよ、じゃあらへん!何わしの分まで食っとんねん!」
「おや。君は白米で十分では?」
・・・あのね、ベルゼブブ君。俺、流石に白米オンリーじゃキツイよ。せめて、おにぎりにしてほしいよ。
「・・・食え」
「・・・はぃ」
アクタベさん。足を今にも振り下ろそうとしないで。俺、ちゃんと食べるからさ。ね?
ぁーあ・・・転職してぇなぁ・・・ま、無理だけど。
白米をささっと口に流し込み、佐隈さんとベルゼブブと共にそそくさとお仕事へ。
・・・ハァッ。俺、早く隠居したい。
陰鬱な気持ちのまま、俺はいつも通り佐隈さんにセクハラしてグリモアでパーンッてされたり、ベルゼブブにムカつくこと言って首撥ねられてみたり・・・
うん・・・俺、心が死にそう。
「はぁー!ほんま、疲れたわぁー!」
「アザゼルさん、結局足手まといだったじゃないですかぁー」
「うっさいわ!男の味も知らん癖に、わしに一々指図すんなや!お前はわしのおかんか!!!!!」
わぁぁぁああ、止めて止めて!グリモアはやめて!アレ、めちゃくちゃ痛いから!
・・・とまぁ、この発言はしてもしなくても意味がない。イコール、俺はグリモアでパーンッてされた。痛い。死にそう。
血まみれで床に放置された俺は、しばらく気絶するという安全策を取って、休憩を取った。
…――
「そりぇじゃぁー、さよぉにゃらぁー」
次に目を覚ましたのは、佐隈さんの酔っぱらった上機嫌な声のせい。
・・・おいおい、よく事務所で酒を飲むなんて荒行、アクタベさんが許したな。
見てみりゃ、ベルゼブブもいないし・・・先に帰られたらしいな。
「アザゼル」
佐隈さんが帰った事務所の中で、今やアクタベさんと二人きり・・・
ガタガタガタッ
ぃ、いやいやいや。怖がるのはまだ早い。まだ何もされてないじゃないか!!!!!
「・・・な、何ですのん?アクタベはん・・・」
「コレ邪魔だ。片付けておけ」
コレ、というのは、机の上に散らかった酒の缶や瓶。
えぇぇええー・・・佐隈さん、片付けて帰らなかったの?
「佐隈さんが置いて行った。さっさと片付けろ」
「は?へ?わ、わかりましたー」
ドスッと椅子に座ったアクタベさんにびくびくしながらも、俺は酒盛りの惨状を片付け始めた。
佐隈さんめ・・・何で片付けていかないんだよ。
って、これとかまだ中身残ってるし・・・
勿体ないなぁ、もぉ。
俺はチラッとアクタベさんの方を見る。
よし!グリモアを読んでてこっちを見てない!
一口だけ、一口だけ・・・
俺はそう思いながらその酒に口を付けた。
あぁ、このお酒フルーツ酒だ。美味しいなぁ――・・・
パタンッ
「・・・おい」
「・・・ん。この酒美味い・・・」
芥辺は、グリモアを閉じ、名前を見る。
何時の間にやら残った酒を飲んではへにゃへにゃと笑みを浮かべている名前。
「・・・・・・」
芥辺は、ちょっとだけ名前を縛っていた力を弱めた。
その瞬間、本来の姿へと戻る名前。
「名前」
「・・・ん。アクタベさん、何ですか?」
何時もの関西弁じゃない、標準語な喋りの名前に、芥辺は驚くことなく近づいていく。
黙って近づいてきた芥辺におびえることなく、名前はへにゃへにゃと笑いながら「何ですかぁー?」と声を上げる。
「ん」
「んー。はい、どうぞぉー」
自分の目の前にやってきた芥辺を、名前は笑顔で抱き寄せた。
なでなでと芥辺の頭を撫でながら、名前は「今日も疲れたなぁー」と笑う。
「聞いてよアクタベさん。今日の仕事で、俺とーっても頑張ったんだ。なんか彼女が欲しいっていう男からの依頼だったからさ、女の子への情熱をすっげぇー語ってくれちゃって・・・正直、どうでも良いっつぅーのぉって。けどさ、俺アホのフリしてるからさ、その男に同意してやったり、佐隈さんにセクハラしたり――」
へらへらと笑いながら言う名前は、ギューッと芥辺を抱き締めたまま「へへっ、アクタベさん良い匂い」と楽しげに言った。
「キスしてもいー?アクタベさん」
「・・・勝手にしろ」
「ん。いただきます」
チュッ、チュッと芥辺の頬にキスをしてから、その唇に深いキスをする名前。
芥辺はそれを大人しく受け、唇が離れると小さく息をついた。
「名前・・・」
「褒めて、アクタベさん。俺、今日も頑張った」
まるで犬のようだな・・・と芥辺は呆れる。
しかし、悪い気はしないのだろう。その口元は軽く上がっている。
「・・・良くやった」
「へへっ。アクタベさん好き」
「・・・・・・」
「アクタベさん、もっかいチュー」
「・・・あぁ」
チュゥッと名前はキスをする。
そのキスは、さながら学生の淡い青春のような・・・
そう。名前が途中で失ってしまった、学生時代のような、そんなキス。
「アクタベさん、知ってますか?好きな子とのデートで動物園行くと、別れちゃうんだって」
「ふんっ、淫奔の悪魔がそんなものを信じるのか」
「えー?だって怖いし。好きになった子と別れたくないから、断然遊園地とかに連れてってあげたいなぁ」
ふにゃふにゃという、邪心の欠片もない名前の言葉は純粋そのもの。
「・・・・・・」
「あ。アクタベさんは図書館とか博物館とかが良いか。グリモアが見つかるかも知れないし」
ねー?と笑いながら、名前は芥辺の首筋に顔を寄せた。
「おい、止めろ」
首筋にキスされてピクッと反応した芥辺が、不満そうな声を上げる。
「シませんよー、別に。俺、ヤるのあんまり好きじゃないし。ヤるんだったら、ムードとかが良くなったときにヤりたいなぁ・・・相手のこと、大切にしたいし」
「・・・淫奔の悪魔が聞いてあきれる」
「へへっ。アクタベさんの身体、大事にしてあげないと」
「・・・バカが」
「んー。アクタベさん大好き。愛してるー・・・」
しばらくして、スゥーッという寝息が聞こえた。
「・・・まったく」
芥辺は大きなため息をついて、名前をソファーまで引きずって寝かせてやった。
片付けも中途半端だった机を黙って綺麗にした芥辺は・・・
「酒ごときでボロが出る演技なら、止めれば良いものを」
フッと笑って、名前の頬を軽く撫ぜた。
おまけ⇒