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ぽとりと教室の床に消しゴムが落ちる。

肘が当たってしまったらしい。


あーあ、とため息を吐きそうになりつつ消しゴムに手を伸ばしかけると・・・


俺じゃない誰かの手が、消しゴムを拾い上げた。



顔を上げて見れば、隣の席のヤツがにっこりと優等生的な笑みを浮かべて俺に消しゴムを差し出している。





「名字君、落としたよ」

「ぁっ・・・」


「ん?」



「あ、有難う・・・花宮」


慌てて消しゴムを受け取り、教師が数式を書き綴る黒板の方を見る。

ついつい、受け取った消しゴムをぎゅっと握りしめた。





花宮のことは知っている。クラスメイトで、しかも隣の席だから当然だ。

だが俺にとっての花宮とは、ただのクラスメイトという認識しかなかった。


なかったはずなのだが・・・




あれ?何でこんなにドキドキしてるんだろう。


消しゴム拾って貰って、名前呼ばれて、笑みを向けられただけだろう?それだけだろう?

何で俺、こんなに・・・





「・・・ふぅ」

落ち着け。落ち着くんだ。きっと、俺は疲れている。





「名字君」

「っ!な、何だ花宮」


真面目な花宮が授業中に話しかけてくるなんて珍しい。

緊張しつつ花宮の方を見れば、花宮はにこりと笑いながら――





「ううん。何か呼びたくなっただけ」





どういうことだぁぁぁあああッ!!!!!!

花宮のまさかの呼んでみただけ発言に、俺の心は盛大にプッシュされている!


俺は「そ、そうか」なんて言いながら、曖昧に笑った。


ヤバイ。少し力を抜けば悶えそうだ。




俺は何故花宮相手にこんなにドギマギしなければならないのだろうか。俺って、やっぱり疲れているのか?

そう一人悩んでいる間に授業が終わってしまった!ヤバイ、ノート取ってないぞ。









「あれ?もしかして、ノート取れなかった?」


また突然話しかけられた。心臓に悪いから止めてくれと言いたい。切実に。




「え?あ、いや・・・」

「良かったら、見る?」

そう言って差し出されたのは花宮のノート。



「いいのか?」

驚きながらも聞く俺に、花宮は笑いながら「もちろん」と言った。


「あ、それと――」

「ぁ・・・」


ゆっくりと身をかがめてくる花宮にドキリとした。

あ、意外に良い匂い・・・





・・・・・・。





俺は何時の間に変態の仲間入りしたのだろうか。もう自分が信じられない。


なんか花宮がノートに書いてあることを説明しているけど、それどころじゃない。というか身体が近い。花宮の腕が俺の腕にくっついてる。






「名字君、聞いてる?」

「き、聞いてる。大丈夫。の、ノート借りるな!出来るだけすぐ返すから、えっと・・・」


「そんなに急がなくても良いから。席、どうせ隣だし」



にっこり笑う花宮が天使に見えて仕方ない。というか・・・可愛いな、花宮って。全然気づかなかった。







「それに、名字君の役に立てて俺も嬉しいし」

「・・・・・・」



「あれ?名字君?」

「・・・ほっといてくれぇ」



「・・・?」

俺は無言で机に突っ伏した。

やべぇ、顔がマジ熱い。絶対赤い。




おまけ




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