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07





化け物への恐怖だとか魔法石を手に入れた喜びだとか、そういうのを一切合切塗りつぶしたおっぱいテロに口数をめっきり減らしたエースとデュース。そんな二人に気付かず、セイラは「よく頑張ったわねぇ」と微笑んでいる。

疲れたから抱っこして欲しいんだゾ、と甘えるグリムをその腕に抱えてやりながら歩く彼女の足取りは踊るように軽やかだ。


無事に魔法石を手に入れたなら、早急にクロウリーに見せに行かなければならない。これがないと、二人の生徒は退学、グリムは事務員の職をクビになってしまうのだから。

制限時間は一晩とあったが、もう外は随分と暗い。彼女が杖をくるりと回して周囲を明るくしなければ、鉱山近くの森で道に迷っていただろう。

無事に学園に戻ってきた彼等は真っ直ぐ学園長室に向かう。


「・・・えっ!?本当に魔法石を探しにドワーフ鉱山へ行ったんですか?」

しかし待っていたのは称賛でも褒賞の言葉でもなく、クロウリーの驚きに満ちた言葉だった。

クロウリーは慈悲として退学やクビを回避する方法を提示してはいたものの、彼等にそんなやる気も度胸も無いと踏んでいた。一応提案はしたが、これっぽっちも期待していなかったのだ。


重要な石像の弁償金も歴史的価値のあるシャンデリアの弁償金も請求しない。それだけでも十分過ぎる慈悲であるため、彼等がドワーフ鉱山に行かなかったとしてもクロウリーは咎めるつもりは一切なかった。

だからこそ彼等が食堂を出て行ってから速やかに退学手続きの準備をしていたし、それと並行してセイラの雇用契約書の作成をしていた。


「いやぁ、まさか本当に行くなんて・・・しかも魔法石を持って帰ってくるなんて、思ってもみませんでした」

「んがっ!なんて野郎なんだゾ!俺様たちがとんでもねー化け物に襲われながらも必死で魔法石を探したっていうのに!」

化け物、という単語にクロウリーが首を傾げる。

そんなクロウリーへエースとデュースもあの鉱山での出来事を説明した。その説明の中でセイラが化け物を倒したという話も出たが、流石に『笑顔のまま魔法で化け物を潰した』という細かな情報はまで伝えなかった。三人とも、思い出すだけでもまだちょっと身震いしてしまうからだ。

三人から化け物の話と、その化け物の恐怖に耐えながらも協力して魔法石を見つけ出した話、その二つの話を聞いたクロウリーはその身体をぶるぶると震わせる。


「お、おお・・・おおお・・・!おぉ〜んっ!」

突然声を上げて咽び泣いたクロウリーに驚く三人を後目に、それまで笑顔で見守っていたセイラが「まぁまぁ!大変!」とハンカチを取り出してクロウリーへと駆け寄る。

「どうして突然泣いてしまわれたの?あぁ学園長さん、このハンカチを使ってちょうだい」

差し出された真っ白な可愛らしいレースのハンカチを受け取りながら、クロウリーは「私、感動しましたっ!」と声を上げる。


何でも彼がこのナイトレイブンカレッジの学園長を務めて早ン十年、個性と個性のぶつかり合いで協力という言葉を一切知らない生徒たちが協力する場面は一度としてなかったらしい。

だからこそ、今回のように協力して魔法石を見つけ出し、化け物の恐怖にも負けずに無事に帰ってきた三人に対して深く感動したのだ。

ただ、クロウリーは彼等『三人』だけで行ったとしたら、このような結果にはならなかっただろうと思っている。三人を見守るために付いて行った『彼女』、そう、この学園では異質だらけの彼女が共にいたからこそ、今回のような結果に導かれたのだ。少なくともクロウリーはそう思っている。


「セイラさん、貴女は魔女としての才能だけでなく、猛獣使い的才能があるのではないですか?」

「まぁ!そんなことを言われたのは初めて。学園長さんの言葉選びはとても面白くて素敵ね」

くすくす微笑む彼女にクロウリーは上機嫌に「えぇ!私、面白くて優しい学園長なんです!」と胸を張った。セイラが一切否定をしてこないからこそ、言動がエスカレートしている節がある。


「今回の件は貴女の助力も大いに関係しているでしょう。トラッポラくんとスペードくんの退学、グリムくんのクビ、この二つは取り消しましょう。勿論、貴女の減給もです」

その言葉にエースとデュース、グリムも大いに喜んだ。

「それに加えてグリムくん、貴方は今回のことで魔法士としての才能を十分に持っていることがわかりました。セイラさん、貴女はやはり優秀な魔女であることがわかりました。・・・これは特別な措置ですが、お二人には仕事の空き時間や就業時間後に図書館などの学園内にある施設を利用する権利と、教科担当の先生方の許可が取れれば、その日の授業を見学する権利、この二つを差し上げましょう。セイラさんの場合は魔法の才はあれどこの世界の情報には疎いでしょうから」

既に魔法を極めているであろう彼女に魔法を学ぶ必要はなく、グリムもそんな彼女という師を既に得ている。そのためクロウリーは二人を『ただの事務員』から『いくつかの権利を持つ事務員』への昇格させた。今後の働き次第では、その権利が増える可能性もある。

権利を与えられた彼女は「まぁ!」と笑い、グリムを抱き寄せ嬉しそうにくるくると回った。


「あぁそれと、これから事務員として働くグリムくんにはこちらの魔法石を支給しておきましょう。その手ではペンタイプは握りにくいでしょうから、首輪タイプになりますが」

くるりと撒かれた魔法石付きの首輪に、グリムは目を輝かせ「わーい!俺様だけの魔法石の首輪なんだゾぉ!」と喜ぶ。本当は、エースやデュースが持つきらきら輝くマジカルペンがちょっぴり羨ましかったのだろう。

セイラには魔法石はなかったが、代わりに『ゴーストカメラ』という魔法道具が支給された。それで校内のあちこちを撮影するようにとのことだった。


「それでは話は以上です。トラッポラくんとデュースくん、グリムくんの三人はそれぞれ寮に戻っても構いません。セイラさん、雇用契約書が出来たので、こちらで確認をお願いします」

「俺様の雇用契約書は?」

不思議そうにするグリムに「一度セイラさんに確認していただいてからきちんとご用意しますよ」と返し、クロウリーは数枚の用紙をセイラに渡した。

そんなセイラを後目に学園長室を後にした三人はこの短い間にいろいろとあり過ぎてとても空腹を感じていた。特に魔獣であるグリムは空腹を我慢する力が他二人より低く「あ!あれがあったんだゾ!」と思い出したように毛皮の中から『ソレ』を取り出した。


「へへっ、あの化け物がいた場所に落ちてたんだ。美味しそうな匂いがするから、拾っておいたんだゾぉ!」

毛皮の中から出てきたのは、一粒の石のようなものだった。何だなんだとグリムの手の中を覗き込んだ二人の顔が顰められる。

「げぇっ、どう見ても石じゃんソレ」

「きっとアイツが隠し持ってた飴ちゃんなんだゾ!いただきまーす!」

顔を引きつらせるエースやデュースを気にすることなく、グリムはその真っ黒な石を口の中に入れた。


「う、うぅっ、うんまぁーい!まったりとしていてそれでいてコクがあり、香ばしさと甘さが舌の上で花開く・・・まるで、お口の中で花畑なんだゾ!」

やけに上手い食レポを披露したグリム。魔獣は人間とは味覚が違うのかもしれない、と思い至った二人は呆れた顔をしながらも「後で腹が痛くなってもしらねぇからな」と言うに留めた。

やがてクロウリーとの話が終わったセイラが戻ってくると、既に飲み下した石の余韻に浸っていたグリムは「なぁセイラ!さっき美味しいの拾ったんだゾ!」と自慢するように声を上げた。

あらあら何かしらと笑顔で首を傾げるセイラだったが、グリムの説明に「もしかして、あの時落ちていたアレかしら」と困ったように眉を下げた。

セイラは潰れて消えた化け物の足元に落ちたソレを視認していた。しかし、それを拾ったりはしなかった。彼女には必要のないものだからだ。


「あらぁ・・・ソレを食べてしまったの?」

「美味しかったんだゾ!」

彼女の問いかけに見当違いな返事をするグリム。そんな彼を、彼女は問い詰めたりはしない。

「ふなぁ?」

優しく優しく抱き寄せられたグリムは、不思議そうな顔で彼女を見上げる。

そんなグリムに微笑みを向けながら、彼女は抱きしめたグリムの頭や背を優しく撫でた。


「結果はまだわからないけれど、きっと悪いようにはならないわ。だって魔女たる私がいるんだもの」

まるで子守唄のように、小さく囁くような優しい声でそう言った彼女に、グリムは「ふなふな」と鳴きながら擦り寄る。温かな彼女の抱擁の中にいると、グリムは不思議とあの美味しい石のことを忘れてしまうような気がした。






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