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06





彼女という魔女のそこはかとない恐ろしさがささやかに露呈した後、クロウリーは「ご、ごほん!では、退学やクビを取り消す方法を一つ提示しましょう」と言う。


本日一回目のデュースは兎も角、エースとグリムはこの短期間に二度も問題を起こしている。一度目は学園にとって重要なグレートセブンの石像の一つ、二度目は歴史的価値のある高価なシャンデリア・・・

どちらの罪も重く、普通なら即退学でも可笑しくないところを『一晩の間にドワーフ鉱山にある魔法石を取ってくること』を条件に退学を見送るなど、本来ならあり得ないことだ。これも一重に彼女の言葉があっての異例の対応だろう。


たとえ、ドワーフ鉱山が閉山して随分経っており魔法石が残っているのか定かでないとしても、素人の未成年たちがろくな準備もせずに足を踏み入れた場合に起こるアクシデントが簡単に想定出来たとしても、これは紛れもない慈悲なのだ。

だからこそ付き添いで三人と共にドワーフ鉱山にやってきた彼女は、クロウリーの提案に異を唱えることはなかった。鉱山の危険性なんてこれっぽっちも考えていない三人を笑顔で見守っていた。


長い事人が踏み入らなかったその鉱山は奥へ行くほどにガスが、それこそ人間の命なんて簡単に奪えてしまうようなガスが充満していようとも、彼女が杖をこっそりくるりと振ればもう問題はない。

ゴーストたちが飛び出して来れば怯える彼等に代わって「まぁ!可愛らしくて素敵なゴーストさん、初めまして!」と笑顔で挨拶をして見せた。

どんなに可愛らしいフォルムをしていてもゴーストはゴースト。対応を間違えれば強制的に『仲間』にされてしまう可能性だってある。三人はゴーストという存在に怖がってはいるものの、その可能性には気づいていない。

彼女はそんな三人が思い至らない『危険』をこっそりこっそり除去してやっていた。勿論、魔法石を入手するという一番の目的に関しては、彼等自身の手で遂行させるつもりだった。とある『アクシデント』が起きなければ。


『い・・・し・・・ウゥウウ・・・オデノモノ・・・イジハ・・・オレノモノダアアアアォォォォ!!!』

巨大な人の身体に頭部は真っ黒なインクが滴るガラス瓶、手に鋭いツルハシを持った『ソレ』は、彼等の前に突如として現れたのだ。

それを見た瞬間に一目散に逃げ出す彼等。謎の化け物の言動から、この鉱山にまだ魔法石が残っていることがわかった。

化け物のおかげで魔法石の有無がわかったが、その化け物のせいで魔法石を入手することが出来ない。


『カエレ!カエレ!カエレ!』

どうにか魔法石を手に入れるため三人が魔法を放つも、突然現れた脅威に対するパニックの影響か、そもそも個々の威力が弱いのか、化け物にはこれっぽっちも効いている様子がない。

むしろそれが化け物の怒りを買ったのだろうか。化け物はその大きなツルハシを彼等に向けて容赦なく振り下ろそうと・・・


「あら、あらあら・・・私の勘違いならごめんなさいね?今、もしかしてだけれど、この子たちを殺そうとしたかしら」

彼女は笑顔だった。一瞬感じた『死』への恐怖でその場に尻もちを付くエースとデュースとグリムの前に、行儀よく立っていた。その顔のすぐ目の前には、ツルハシの先端が停止していた。

まるで見えない何かに阻まれているように、ツルハシは小さく震えるばかりでそれ以上前には進まない。


「住処を荒らされて怒るのは無理もないわ。愛する場所を土足で踏み荒らされたなら、侵入者を何としてでも追い出さなくちゃいけないわ。それはよくわかるのよ、わかるのだけれど・・・」

一歩、彼女が前に進めばツルハシから軋んだ音がした。

ミシミシ、キリキリ、パキッ・・・

ツルハシの先端が割れた。化け物はその異常事態に気付いたのだろう。彼女が一歩進むごとにゆっくりと後ろに下がった。


「でも、相手がこの子たちで、この子たちを殺そうというなら話は変わるわ。えぇ、えぇ、この世は理不尽だもの。外敵を追い払う正統な暴力であろうとも、私はそれを許さない。古来より魔女の呪いは理不尽と決まっているもの。きっと、これも魔女であるなら許されるんじゃないかしら」

笑顔のまま、穏やかな口調のまま、彼女はゆっくりと杖を持ちあげた。

杖がくるりと回り、きらりと輝く。その輝きは化け物を包み込み、ツルハシと同じように軋んだ音を響かせ始めた。

痛覚があるのだろうか。全身を圧し潰すような感覚に絶叫を上げる化け物に彼女は「あらあら、元気ねぇ」と笑う。


腰を抜かしたままだった三人はあまりの光景に言葉を失った。

やがて化け物の声は止む。砕けたツルハシと同じで、化け物が砕けたのだ。

血の代わりに真っ黒なインクを撒き散らしながら潰れた化け物は、そのインクすら残さずに消えていく。


「あら、消えてしまったわ」

彼女のやけに穏やかな声で響く洞窟で、三人はぶるぶると震えながらも魔法石探しを再開することとなった。

洞窟の奥の奥、きっとあの化け物が守っていたであろう魔法石があった。先程の恐ろしい光景を一瞬忘れて喜び合う三人に、彼女が「良かったわねぇ!」と笑いかける。

びくりと肩を震わせた三人は、肩を寄せ合い彼女には聞こえないように小声で話し合いを始める。


「・・・さっきのは僕たちが傷つけられそうになったから怒った、ということで良いんだろうか」

「いや、怒ったにしても怖すぎるだろ。・・・まぁ、守って貰ったのには変わりねぇけど」

「ふなぁ・・・容赦が全くなかったけど、俺様たちには優しいんだゾ」

先程の光景はどう考えても怖かったが、同じ恐怖に怯えながらも魔法石を探し当てて仲間意識の芽生えた三人は頷き合ってセイラの方を見た。


「セイラ!有難う!」

「まぁ最終的には魔法石も手に入ったし?一応感謝はしてる」

「有難うなんだゾ!」

魔法石を握り締めてお礼を言う三人に、彼女の頬が薔薇色に染まる。


「まぁ!まぁまぁまぁ!きちんとお礼を言えるなんて、なんて良い子たちなんでしょう!私、とっても嬉しいわぁ!あぁ、可愛い可愛い子たち!」

勢いよく三人の頭を半ば無理やり、まとめて抱きしめたセイラにグリムは「ふなっ、く、苦しいんだゾ」と抗議の声を上げ、思春期真っ盛りなエースとデュースの二人は目の前にある豊かな胸に言葉を失った。


・・・おっぱいってこんなに柔らかいんだ、なんて感想を抱いてしまうのは、仕方のないことだろう。






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