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04





見知らぬ生徒たちの入学式を盛大に祝い、廃墟と化していた建物を美しく磨き上げた魔女たる彼女は、窓から差し込む朝日で目を覚ました。

同じベッドに眠っていたグリムを優しく撫で、キッチンに向かった彼女。

その途中で出会うゴーストたちと笑顔で挨拶を交わしキッチンへとたどり着いたが、昨日の今日で食材の買い置きがあるわけもなく、キッチンはがらんとしていた。


学園長のクロウリー曰く、大抵のものは購買部で購入可能らしい。

寮であれば朝食は寮で出るし、昼食や夕飯は決まった時間なら食堂で食べることが出来る。しかし彼女とグリムの二人きりのこの場所では、当然朝食は自炊となる。夕食を摂る時間帯によっては、夕食も自炊する必要が出てくるだろう。

購買部も、こんな朝早くからだと開いてはいない。それでも彼女は特に気にせず、小さく欠伸をしながら杖をくるりと回す。きらりと輝いた後、テーブルの上には卵が二つとベーコン、それからいくつかの調味料が並んだ。


作るのはベーコンエッグ。材料ではなく最初から出来上がった状態のものを出せばいいのに、と思う者もいるだろうが、彼女は卵やベーコンがじわじわと焼き上がる時の香りが好きだった。

現に、卵やベーコンが焼ける香りに釣られてグリムは「おなかすいたんだゾぉ」と起きてきた。良い香りでの目覚めは、素晴らしいものだ。


グリムと二人きりで朝食を食べた彼女は、今日が事務員として働く一日目である。

彼女と同じく事務員になったグリムは「事務員なんて面倒なんだゾぉ」と言いながらも彼女の隣をふわふわと浮いている。昨晩の彼女との約束をきちんと守って、何気ない時間でも浮くように決めたらしい。

そんなグリムに彼女が「浮くのが疲れたらこっちにいらっしゃいね」と優しく笑いかけてくれる。本当はまだ疲れていないが、疲れたフリして彼女の腕に抱っこされてみた。彼女は笑顔でグリムの頭や顎を撫でてくれた。グリムは幸せな気持ちになった。


「学園長さんは何処にいるのかしら。職員室?もしかすると、学園長室なんてところがあるのかもしれないわね」

「待ってればあっちから来るんだゾ。何でわざわざ行かなきゃなんねぇんだ?」

「ふふっ、朝の気持ちの良い空気を吸いながら歩くのは素晴らしいことよ!あぁ、歌でも歌いたくなるぐらい!」

「よくわかんねぇんだゾ」

そんな会話をしながらメインストリートまで来ると、道に沿って七体の石像が並んでいるのが見えた。

昨夜通った時は薄暗かったためよく見えなかったが、歴史的価値の高そうな立派な石像だ。


「まぁ立派な石像ねぇ」

「こいつら誰なんだ?石像になるってことは、偉いのか?」

「どうかしらねぇ。でもきっと、この学園にとっては重要な人たちなのかもしれないわね」

セイラにもグリムにも、その石像の人物たちが何者かはわからなかったが、メインストリートという目立つ場所に飾られているということは重要な人物たちであろうことは明白。

しばらくその石像を眺めていると「なぁあんた」と声を掛けられた。

振り返ってみると、目元にハートのフェイスペイントをした男子生徒が一人経っている。


「あんた、昨日の入学式でめっちゃ騒いでた奴だよな」

「あら?貴方は?」

突然声を掛けられ少し首を傾げた彼女は、にこりと微笑んで問いかける。


「俺、エース・トラッポラ。昨日入学したばっかの一年生」

「まぁ!あなたは新入生なのね。学校生活一日目!とっても素敵だわ!」

ぱっと花が咲くように明るい声を上げた彼女のその勢いに押され、エースはビクッと肩を揺らす。


「ま、まぁね。学校に通えないあんたらと違って・・・」

「あらあらまぁまぁ!もしかして、授業が受けられない私たちを案じてくれたのかしら。グリム、この子ったらなんて優しいのかしら!心配はいらないのよ?私はもう十分だし、グリムには私がお勉強を教えてあげるもの。でも、心配してくれた優しいあなたには、プレゼントをあげましょう」

「へっ!?わっ、ちょっ!」

目の前に出てきた杖に驚いている間に杖がくるりとまわってきらりと輝く。


「えっ、これマジで貰っていいの?」

「勿論よ!お勉強頑張ってね!」

手の中に収まったのは、質の良さそうな万年筆。

「そのインクはなくならないから、沢山お勉強出来るはずよ」

ぱちん、とウインクが一つ。

え?なくならないってどれくらい?まさか一生かかってもこのペンのインクはなくならないわけ?

エース・トラッポラはそのペンを軽い気持ちで自慢するのはやめようと心に決めた。


唐突なプレゼントは正直嬉しいが、そもそもエースが彼女たちに声を掛けたのには理由がある。

少し前から彼女たちの様子を窺っていたが、どうやら彼女たちは彼の有名なグレートセブンを知らないらしい。

入学式であれだけ派手なことをしてみせた大魔法使いとおそらくその使い魔。その二人が無知だとわかれば、それを揶揄いたくなるのは昔からの癖のようなものだ。

まぁそれと、そんな凄い魔女との会話のきっかけが欲しかったから、という理由もある。エースは思春期の男の子だった。

でもどうやら、彼女の方は酷く鈍感というか、あまり人の話を聞かないタイプらしい。こちらが言葉で揶揄っても、笑顔で聞き流されてしまう可能性がある。


仕方なくエースは、標的を彼女からその腕の中にいるグリムへと変えた。

彼女とは違い、グリムはエースの揶揄う言葉に簡単に怒り、エースはその姿を更に揶揄った。

だがちょっとやり過ぎたのかもしれない。怒ったグリムは彼女の腕の中から飛び出すとエースに向かって火を吐き、エースはそれを避けるために風魔法を使って・・・


「君たち!これは何の騒ぎですか!」

彼等のすぐそばにあった石像の一体が、見るも無残な丸焦げ状態となってしまった。






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