BLACK COAT01
ぽろり、ボタンが取れそうになっているローの上着。
いつもはパーカーなんだけど…今日は特別。
寒いし特別。
今日は海の神様に…これからの航海、無事でいられるように祈る日。
『あ!ここ、ほつれてる!!!まって、今縫うから』
「あァ?うっせぇよ。…こんなもん新しい服に買い替えればいい。」
『また!そんなこと言って!そうやってすぐ捨てちゃうと、裁縫の神様が怒るよ!!!』
「だからうるせェって。早く縫えよ。…おれまで縫ったらお前の頭改造するぞ。」
『はいはい。』
ぱぱぱぱ〜とボタンをつけると、イッチョ前に御坊ちゃまローに大変身。
『ふふふ。』
「何笑ってんだ?気色悪ィ…。」
『ん?…もう私たちもそんな年なんだね。…どうりでこの洋服も…ツンツルテンになるはずだわ。』
この何年かで、ものすごく背の高くなったローの…御坊ちゃまみたいなロングコートはショートコートかってくらいツンツルテンだ。
…なのに肩幅とかは変わっていないの。
不思議。
脚だけ伸びやがってコンニャロウ!
「いいんだ。お前がいれば。いつだって仕立て直せるんだろう?」
『まぁ、ね。お任せください!キャプテン。』
幼なじみのロー。
物心ついたときからずっと一緒で…
大好きなロー。
初めての誕生日プレゼントは…あの帽子。
あれ、私が作ったの。
「くそ…。寝癖が気に食わねェ…。」その一言がきっかけで、うちのお店で一から学んだことを今でもよく覚えてる。
あ、申し遅れました。
私、テイラー。
ローの家のハス向かいで衣料品を扱ったお店を経営しています。…父と母が。
なんでも作れるんだよ。
たとえば…革のブーツとか。
材料さえあれば頭の先から足の先まで…メジャーでパパパっと測ってチョチョチョイと。
お茶の子さいさいですよ。
まぁ、これも両親のおかげですね。
将来は家を継ごうと思っていたんだけども、ローが海賊になるっていうから、私もついていくって決めたの。
両親はのんきなもんだから(私がローのことを好きなのも知ってる)一瞬で賛成してくれた。
だって、ローの服が破れた時には一番に縫いたいし…
しわ寄っちゃったってんなら一番にクリーニングしたいじゃん。ねぇ。
お父さん、お母さんありがとう。
衣類に関しては全部お任せなさい!
「なんだよ?」
『ううん。なんでもな〜い!!』
「海の神様なんていないだろうに…」なんて言っているローの横で両手を組んで祈った昼下がり。
崖の下にはこれから乗る潜水艦がぷかぷかと浮いていた。
『なんだかお魚みたいな船だね。黄色いし。う○こみてェ。』
「あァ。お前はバカだからな…。壊すんじゃねェぞ。」
『むぅ〜ひどーい!!』
未だ船員は私一人。
これからの期待を胸に感じながら、二人で船に飛び乗った。
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