永久の夜に君は笑う01

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真夜中の1時を回った頃だろうか。
読みふけっていた本を閉じて、背伸びをすると腕と背骨辺りの関節で空気が弾けて、独特のパキッという音がした。



――――ドンドン、ドンドン、ドンドン


「…チッ、開いてるよい。入れ。」


開いた自室のドアが、夜風を潮の香りと共に連れ込んでハァハァと、可愛げの無い荒い息が響いた。


「マルコッ!!ちょっと来てくれ。」


「なんだいエース慌て過ぎだろい。」


「いいからっ!!」



マルコの袖口を加減無く握ってエースが部屋を飛び出す。ギリギリと軋む手首に不快感を覚え、マルコの眉間に皺が寄った。



「何だい、コイツは。」


思い出せば、今夜の不寝番は二番隊だったエースは異常を察知してマルコの元に知らせに来た訳である。


「女?…だねい、こりゃあ。」


「流れて来たんだよ、板切れにひっつかまってさ!見張りに使う松明で遊んでたら、何か白いもんが海にみえて…」


「ハァ…メンドクセェ。とりあえず医者叩き起こせよい。死んでりゃ海に戻しとけ」


頭を掻いて投げやりに指示を出すと、念の為オヤジに報告しなければと頭を働かせる。



「ウァアアアッ?!」



悲鳴に慌てて振り返れば、クルーの1人が空を指す。その方向に首を上げてマルコは絶句した。



「なっ…、」



グランドラインの何処でも見たことの無い大きな黒い鳥が二羽。
それは能力解放時のマルコを凌ぐ大きさでゆっくり羽ばたいてモビーを見下ろしていた。



「だからメンドクセェっつってんだろい!」



一気に翼を広げ空に駆け上がったマルコが空中で回転して踵を一羽の背中目掛けて振り下ろす。だが手応えは無く、虚しく空を切り裂いた。



ア゛ー!!



轟音のような鳴き声を一度あげて、マルコの周りを二羽で旋回すると、もう一度鳴いてフワリと真っ黒な羽毛を遺して消えた。


「消えた…?」



ゾーン系だからだろうか、マルコの勘は良く当たる。この時もそういった類の胸騒ぎを覚えて、モビーへ舞い戻った。








――――――――――――――――

「アァ、そいつぁチィと厄介だァ、マルコ。…俺の記憶が正しけりゃあな。」


「本当かよい、オヤジ。…あの女も関係ねぇとは思えないんだい。どうする?」



ダポンと酒瓶と呼ぶには大きすぎるソレを一度傾けて喉を鳴らした後、エドワード・ニューゲートは立ち上がり、薙刀の柄をドンッ!!と床に打ちつけた。



「息子達!!進路を変更すらぁ!!今すぐに一番近い島へ向えェ!!」



地鳴りに近い声を張り上げて船長命令が下る。途端に船内が慌ただしくなり、モビーの最速を以て冬島に寄港した。



「マルコ、誰一人、船から降ろすんじゃあネェぞ。拾った女ァ時期に目が覚める。そうしたら口を利いちゃあならねぇ。」


「?…あぁ、解ったよい。」



ニューゲートはそう言って無理をした身体を休めるために自室へ向かった。マルコは言われた事を手配し、女の居る医務室へ向かう。
普段騒がしい甲板は、誰の声もせず静寂で少しだけイラついた。



「何だってんだい、全く!!」




―――クスクス。
―――クスクスクス。



夜明け前の薄暗がりに、女の笑い声。
明らかに自分へのモノだと思えば、
更にマルコの苛立ちは増した。
しかし、話すなと言われている。



「何を怒ってるの?」



突如としてあがった後ろからの声に、
本能的に構えて振り返った。



「助けてくれてありがとう、マルコ。」



何だ?
名前を何故知ってんだい。



「ん?…あぁ、そうか!オヤジが話すなって言ったね?マルコって呼んでた。」



ペコリとお辞儀をして女が笑う。



「はじめまして、私はせん。マルコに用があって来ました。」



「?!」



「でも、口を利けないんじゃあ仕方ないよねぇ。…どうしよう?」



せんというコイツは首を捻り、ふざけた真似だろう、困り顔をする。
パタリと音がして、足元を見ればそこに
またパタリと。
俺は滴り落ちる程の汗をかいていた。



「あー、じゃあ見てて?せんは今から面白い事をしまーす!!」



スゥッと、せんが片手を海に翳して僅かに口端を上げた。
途端に海が荒れ始め、モビーの巨体を軋ませる程に打ち寄せる。



「テメェッ、何してくれてんだいっ!!」



焦った時にはもう、遅かった。
ヒュウッ!と口笛を鳴らして笑うせんを見て、やられたと舌打ちした。



「ハハハハ!!こんなの冗談に決まってるじゃない?マルコが意地悪するからよ。」


ゆっくりとせんが近づいているのに、マルコは身動きが出来なかった。
パタリとまた、汗が床を打つ。



「船を壊したくは無いわ。だからね、マルコ私の名前呼んでくれる?場所を移りたいの。何にもしやしないわ。」



せんの指先がマルコの唇に触れた途端、マルコは目を見開いた。



「…せん。」



勝手にそう、女の名前を呼んでいたのだ。


「ありがと。さ、少し辛抱してね?」



せんが再びヒュウと口笛を鳴らした途端、マルコはプツリと意識を無くした



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