永久の夜に君は笑う02




スンスンと音がして、何かが息を吐く
その不快さと生暖かさに目を開いた。



「ッッ?!!」


飛び起きて身構える。
そこにせんの姿は無く、ここはモビーでもない。解るのは目の前に二頭の狼がハッハッと息を鳴らしてマルコを睨みつけている事位。



「せんッ!!何処に居やがんだよいっ!!出て来い!!」






「あぁ、せんなら居ない。アレは私の遣いだ。此方には来られない。」



飛び込んできた老人の声に、思わず覇気を向ける。途端に狼達が低く唸り、牙を剥いてマルコを睨む。



「あぁ、およし。お前たち。マルコお前もそんなに恐れんで良い。用があるとせんが言わなかったかな?不死鳥よ。」


真っ黒な幌加内を被り杖をついて、老人は笑う。片目が閉じられたままだと気付いた。



「マルコ、お前は賢く勇敢だ。私はお前に興味があってなぁ。お前が望むならば、全てのモノを解する知識を与えてやりたい」


ゆっくりと、いつの間にか在った木椅子に腰掛けて袂から酒瓶を取り出して老人は煽る。


「あ゛?お前何なんだよい。何で俺を知ってる」


「ハハハハ!私の遣いがな、お前を見ていた。普段は何処にでもいる鴉の姿じゃから、船に停まっても気にしまいな?…まぁ、蹴られかけたと怒っておったがなぁ!」



…あの、馬鹿でかい鳥が?



「お前だから、誰だよい」


「聞くか?…我が名を聞くならば、相応の対価が必要。お前さんに覚悟があるか?」


「勿体ぶるんじゃねぇよい、ジジイ!!」


言った途端、老人の持ち上げた杖は大きな槍に姿を変えニューゲートのように其れで地を打った。



「?!…っがっ?!ゥ、アッ!!ぁぁあああ?!」



地に伏して奥歯を噛み締めても尚、やり過ごせない痛みがマルコの四肢を襲い、やがて内臓を抉るような痛みまで伴う。
悶絶するマルコの頭に響くように声がする




――――軍神・オーディン
――それが我が名である。聞け不死鳥。
――総てを手にするだけの知恵は要らんか
――お前は、私から知恵を授かるか?
――軍神の戦士となるならば、与えよう


「ハッ!!ぃ、らね、よい、ジジイっァァ゙ッ!!」


――ホォ。要らぬか。…何故?


「俺っ。は、オヤ、ジの為にしか、命、ぅう゛っ、張らねって、決め、てんだい!」

――やれやれ、またニューゲートか。
――ハハハ、マルコ、それと同じ事を
――言った奴を知っておる。


身体の痛みが消え、噛みしめすぎたマルコの口から紅が滴る。ゼェゼェと息を荒げて、やっと地面から視線をオーディンへ移す


「お前達が親父と慕うあの男だ、マルコ」


あぁ、だから。オヤジは口を利くなと。
息子の俺を、案じてくれたのか、親父。



「しかし、軍神に背いた対価は貰うぞ?マルコ、私はお前を見ていよう。」



「殺さ…ねぇのかい?罰とかよい。」



「無いなぁ、そんなものは。無意味だな。人間の考えそうな事だ。」



―――ただし。
――その志を曲げた時
――海がお前を拒む。



「は?…何で、海が…?」



空になった瓶を振って、オーディンはニヤリと笑ってマルコを見た。



「愚か者め。私は軍神であり、死の神。…じゃがな、それより遥か昔から、こう呼ばれとるわ。」



―――海を統べる神・オーディン



「…マジかよい…。じゃ、あの波も…」



「あぁ、私だ。ニューゲートは知っとったろう?陸に向かったからなぁ。」



大層愉快に笑って、オーディンは手を
マルコに差し出した。
起き上がれ。という代わりに



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