anyway the wind blow



あの日、キスをして以来サッチは
メアリーと顔を合わせていなかった。
家に近づく1歩ごとに、緊張から汗が
背中に滲みでる

しかし、その1歩ごとに感じたのは
汗の感触だけでなく、メアリーの家の
異様な喧騒。

メアリーは父親と2人暮らしだった
島でも数少ない、屈強な漁師の男で
14の娘がいる割に、はつらつとしていた。
メアリーが幼い頃に
戦争で妻を亡くし、命からがらこの島に
流れ着いたという。

メアリーはいつでも、自分の父親を駄目親父
と揶揄するのだが、サッチにはその理由がわからなかった。

この家の騒がしさも、いつでも
父親に怒鳴りちらす、メアリーの声が原因だ。
それがいつにも増して、ひどかった。

慌ててドアをノックすると、しばらくの間をおいて
メアリーの父親が外へ出てきた。



「やあ、サッチ」
「あ...あの」
「年頃の娘ってのは、みんなああなのかねぇ」

ため息まじりに優しい目でサッチを見る
その男は、理想の父親そのものだったかもしれない。


「これ、母ちゃんからの差し入れで」
「いつもありがとう、サッチ。
 メアリーに渡しておくよ。」

「今日のお祭り...」

そういって、家の中を覗こうと背伸びを
したサッチだったが、メアリーの姿を見えることは
できなかった。


「そうだね、今日の祭り...」

そう言ったメアリーの父親はどこか遠くを
見つめるように、その後の言葉を続けなかった。


「楽しみにしてるって、伝えてください」


サッチは、沈黙にそう言葉を残し
その場を後にした。





丘になったサッチはの家からは、この日だけ飾り
つけられる電飾やカラフルな万国旗に彩られた
広場がよく見えた。

やがて日が暮れ、島の長が鐘を鳴らす。
年々減っていく島の人口を具現化するように
いまではたった6人の島の若い娘たちが、煌びやかな
衣装を身にまとい、一年の収穫を祈り踊る。
祭りの囃子がだんだんと強く、あたりに響き始めた。


サッチの視線はもちろん、メアリーにだけ注がれる。

ブドウ農家のジェシカは、いつも島一番の美人だと
もてはやされていたが、サッチにとってはそうではなかった。

海に愛され、海と戯れるメアリーこそが
誰よりも美しい存在だった。

少なくとも、彼の中では

そんな彼だからこそ、その一瞬のできごと
の全てを見ていた。

踊りがフィナーレに近づいていき、
祭りの太鼓がよりいっそう強く連弾し始めたとき
一瞬のうちに、メアリーは踊りの舞台の花道に
進み出ると、迷いもなく長筒から弾丸を放った。


祭りの夜をつんざく破裂音が響き
サッチは思わず立ち上がり、振り向いた。






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