chapter thir

「えーと……、もう駄目か?」


頭を掻きながら眉をハの字に下げて、困ったと
その顔が言っていた。
車は立派なのに、持ち主は申し訳ないけど
セレブというよりは、コンビニ帰りのオッサンに近いと思う。
無精髭にTシャツとハーフパンツ、
仕上げにビーチサンダルというラフさで。



「間に合うとか間に合わないとかじゃないでしょう?
此処は駐停車禁止区域!!」


「ぁ、お、おぉ……すまん。」


「すまん。で、済んだら警察要りません。
はい、免許証出して!」




ペシペシ、手のひらで切符の冊子を軽く叩いて
身分証明を促す。相変わらず余裕綽々なこの運転手は、切符を切られない
とタカを括っているんじゃないかという気がしてきた。



「コレでいいか?何かアンタ、警官やってんのが勿体ない位だな。」


「余計なお世話です、……シャンクスさん?」



免許証に目を落とした時、名前と一緒に飛び込んできたのはキリリとした顔の
この人の証明写真で、今現在目の前に居るヘラリとしたこの顔と同一性が
無さすぎだと苦笑いしたくなった。
お見合いなどしたら、軽い詐欺だろう。



「で?此所が禁止区域だというのは?」


「あー……、知ってた。すまん。」


「1台停まると他の車両が駐停車する引き金になります。
必ず駐車場に停めるよう考えを改めて頂けます?」


「……あぁ、解った。気をつける。」




あまりに素直なので、ふと顔を見上げると
シャンクス氏と視線がかち合う。ニヤニヤと
私をみて髭のだらしなく伸びた口元がゆったり
開いて音を出す。




「アンタ、本当に……勿体ねェな。
逆に、駐禁捕られに来る奴とか居ないのか?」


「…………は?」


「いや、ホラ。アンタ目当てにさ。」



馬鹿、なんだろうか。
いや間違いない。……馬鹿だ。



「居ません。断じて。」


「え〜?そうなのか?!……解ってネェ奴ばっかだなぁ。
俺なら毎日でもいい。」




あまりにも、ふざけているので。
瞬きする間にシャンクス氏の右腕を軽く後ろに
捻り挙げて車両に腹部側を押し付けて差し上げた。



「ナッ、!痛てェよ!!悪かったって!冗談じゃねぇ本音だけど、俺が悪かったって!!」


「……あんまりふざけた事してると、公務執行妨害を適用しますからね?」



お灸を据える意味でギリギリと締め上げたので
空いてる左手で車体をバンバン叩いて
オッサンが苦悶する姿を見ていた訳だが、
突然後ろから賑やかな声がした。



「あ゛ー!!お前シャンクス虐めんなよォ!!」



「馬鹿っ、ルフィけーかんにお前とか言うなよ!ちゃんとお巡りって言え!」



ヤイヤイしている方へ腕を締め上げたままま振り返ると、小さな男の子が二人。
一人は麦わら帽子を被り、兄と思われるソバカスの子は、脇にサッカーボールを
抱えて突っ立っていた。


「ごめんね?虐めてる訳じゃないんだよ。ちょっとお話してるの。」


「そっ、そうだぞルフィ!俺は、婦警さんとスキンシップを、だっ、痛っ、」


「……シャンクス、かっこわりぃ……。」




冷めた目でソバカス君がポツリと言って
私もそれに同感だと思った。
冷や汗をかきながら、女に絞められているなんて
情けないの象徴だという気がする。



「いーからお前ら早く帰って飯食え!また今度遊んでやんねーぞ?」



その言葉に、私は腕の力を弛めシャンクスを
自由にした後、小さな兄弟に目線を合わせて訊ねた


「……遊んでもらってたの?」


「おぉ、そうだぞ!公園からボールが飛び出したのを
シャンクスがココで拾ってくれてさぁ、」


「俺らだけで遊んでるって言ったら、さっきまでサッカーの練習してくれたんだぜ。
……だからさ、許してやってくれよ、お巡りのねーちゃん。」



小さな、でも真っ直ぐな申し立てに
ほわりと胸が温まる。
この子達が嘘を言う必要性は無いし
何より、シャンクス氏なら解らないでもない。


「ん。そっか、教えてくれてありがとう。でも、ココは車を
停めちゃいけない場所だから、次はシャンクスさんが車じゃない時に
遊んで貰ってね?」



「オゥ、わかった!」
「しかたねぇな。」



二人揃ってニッと良い歯並びを露にして
この可愛らしい救世主は私に親指を立ててみせる
その微笑ましさに微かな笑い声を溢せば、
後ろから更に大きな馬鹿笑いがした。



「笑い事じゃあ無いですからね?」


「………………すまん。」




辺りを見渡せば、ミニパト効果か違反車も無い。
シャンクス氏についても、マルコさんには
甘いとシバかれるレヴェルだけれど、
去り際までシャンクスの潔白を主張していった
あの兄弟に免じて赦す事にした。



「次はありませんよ?」


「あぁ!解った。ありがとな!」


「っ、ぉお礼なら、ルフィ君とエース君に言うべきなんじゃないですかね。」




あまりにも、屈託の無い笑顔を見てしまって
不覚にも動揺して口ごもりながら慌てて
署に帰るための後片付けに取り掛かる。




「あー、でもなぁ。さっき言ったのは本音だぞ。」


「……何がです?」


「アンタ目当てにさ。駐禁、」


「馬鹿にするのも程々にしとかないと、本気の背負い投げを
アスファルトでお見舞いしますよ?」


「ぉお、そりゃ、死ぬな。……ははっ!」





降参だと言いながら車に乗り込んだシャンクスは
エンジンをかけて滑る様に車を禁止区域から
移動させるため立ち去った。



「……背負い投げれば、良かった。」



すれ違い様にバッチリ、
私にウィンクを飛ばすのを忘れずに……。
やはり、次回から必ずサッチ先輩とペアで
行動しようと胸に誓いながら、
制裁し忘れた事をとても悔やんだ。



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