彼の哀愁
「ロー、お前の為じゃねェからな。フッフッフ」
他を寄せ付けることもない金額で、ジョーカーは人魚を
あっさりと落札した。
その後に行われた取引の話の最後、投げられた一言は俺に向け、だった。
今後、この大物達を繋ぎとめるものは
人魚のことを絶対に口外しないという口約束。
対価、ジョーカーからは仕事、金、仕切ってきた場所が
次々に分け与えられていった。
俺にはマイアミ、そして政府の仕事だ。
とりわけクロコダイルにはこれ以上にないだろう話がされていた。
「テメーが手に負えねぇカジノとホテルがいくらある?」
「あァ?聞いてどうする」
「全部買い取ってやるっつってんだ、
好意を、受け取れよ、鰐野郎」
時代の流れ、そして海の向こうでドンパチやっている最中
観光産業だけで生きるネバダに金が落ちてくることはなく、
最も苦しい状況を、ジョーカーはよく理解していた。
「ただし、テメーらは二度とヴェガスに入るな」
そう釘を刺されようとも、クロコダイルにはプラス以外の
何モノでもない話。
しかし、人魚を落札した意図が読めない。
一体何の為だ。
呆然と見送ったジョーカーの背中から、
かつて感じていた威厳とか、畏怖のような
空気を感じられなかった。
何があったのか、
もうそれは誰も知る事の無い、道化師の変異だったんだ。
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