クマの憂鬱

しばらくその球体の水槽を眺めていた。


心穏やかにアラスカの地に住めば、このマイアミの
馬鹿げた喧騒は苦痛そのもの。

招待されたこの地下室で揺らめく青い水は、子供の頃に
訪れたアクアリウムを思い起こさせる。
ただ眺める、それは田舎暮らしの日常とさほど変わらない。
街に出るよか、ココの方がマシだと思わせてくれる。

まあ、中身に関しては得体の知れないものであるし
大体、凍りついた大地で魚を飼うなどという酔狂やる
ほど俺はヒマじゃない。


やがて漂ってきた香水の匂いに、自然と鼻腔が
ひくつき、しかめきってしまった目をサングラスで隠した。



「久しぶりじゃのう、クマ」



サンディエゴのハンコック。
確かに美人ではあるが、俺の興味はイマイチ沸かない。

性格に滲む幼さ、それがどうも癪に障る。

こんなのが、4キロメートル四方を焼き尽くす砲弾を
売り歩くから世の中は恐ろしい。



「人魚か、綺麗じゃ。随分と大げさな演出をして……」

「アクアマリンだそうだ、水槽の底に落ちているだろう」

「ああ、なんと美しい。
人魚の涙か、是非欲しいものじゃ」

「買うつもりか、ハンコック」

「値次第じゃな。クロコダイルのことだ、
欲しそうな顔を見せればどこまでも値を吊り上げよう、
まったく、どこまでも腐ったヤツじゃ」




嬉しそうに人魚を見上げる顔には、既にバービーを
欲しがる子供のような表情が張り付いている。


やはり大きな損でもしない限り、この女帝は成長しないだろう。



対照的に不安げな表情でポロポロと宝石をこぼす
人魚の姿には軽く同情した。

上手くけしかければ、ジンベイとハンコックが競り合うだろう。
上手くけしかけるのは、クロコダイルかドフラミンゴか。





「おお、お前らもいたのか」


気の抜けた声と共にやってきたのは、モリアだった。


「人魚ねぇ、本物なのかぁ?」


遠慮もなくベタベタと水槽に触り、中の人魚を
覗き込みながら疑り深い言葉を並べる。

彼は更にやっかいだ。

大損しようが、大負けしようが成長しない大人。

何年もカモにされ続けていると言うのに、気付きはしない。


まだ男だからいいとしよう。

このまま行けば、ハンコックの行く末はモリアと
同じように思えた。



「人魚か、本物だろうが偽者だろうが俺はキョーミねぇなぁ」




似たもの同士、その二人を後ろから眺めながら

アラスカで飲む暖かいアメリカンのコーヒーが
妙に懐かしく思えた。


今日の競り合いは、あまり面白くなさそうだ。





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