鰐の拾い物

ほの暗い地下の会議室がいつも以上に湿っぽかった。

仰々しい水槽に入れているのは一匹の人魚。


そして大きな瞳からはアクアマリンの宝石がポロポロと
落ちていく。
ウィラードの娘が泣いて喜びそうな、嘘のようで本当の話だ。

だが子供にはちと生なまし過ぎるだろう、きちんと生えている
のは鱗だ。水揚げされた鰯同様、潮と血の混じった悪臭を放っている。


こりゃ子供向けの商品じゃねえ。


大体ココに持ち込むのは黒光りする重量感タップリの
鉄の塊なわけで、珍品を持ち込んだ今回、一体ヤツらが
どんな顔をするのかも見物だ。

ハンコックか、モリアか、クマか……ジンベイあたりは
海洋環境保全だとか、ワケのわからんことを抜かすだろう。
堅物の奴にとっても、これは値打ち物に違いない。

それぞれ、顔色を伺ってから取引の開始金額
を決めるのも悪くない。

売れ残れば俺がもらっておこう。



「人魚か、伝説かと思うとったが・・・現存していたか」

「ああ、3体引き上げたが2体共、引き上げるときにはすでに
虫の息、陸に上がったときにはもう動かなくなってた」

「亡骸は」

「一応持ってきてあるが、だいぶ腐ってきてひでェ臭いだ」


どちらかというと、ジンベイは廃棄物の方に興味があるようだった。
大げさな水槽を見上げて難しそうな顔をしたかと思えば、
醜い面をまたオレに向ける。


「生きてるんじゃな、この人魚は」

「さあな、泣いてるじゃねえか」

「確かに、おとぎ話のようじゃな。人魚の涙はアクアマリン、か……」



眼から零れ落ち続けるアクアマリンは水槽の底に溜り込み
人魚を一層青白く輝かせていた。
意図せず、青く揺れる光が映し出された天井は、
さながら幻想的なショーのようで、オレは無性にいらついた。


「鑑定済の本物だ。あいつが泣き続けりゃ、いくらでも生産できる。
いくら儲かるだろうな」

「だが、生態系はどうだ。
現存する最後の人魚だとしたら、こりゃ大事じゃぞ」

「だから親愛なるお前らだけに声をかけたのさ。
なぁ、ジンベイ。お前ならこいつを有効に使えるはずだろ、ちがうか?」

「うむう……」




手ごたえはあったが、決定打にはならなかったようだ。


セールスマンってのも楽じゃないんだ。

とくに需要のわからねえ品物を売るってことはな。


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