The Gypsy (フィオナのとある一日)



かつてこんなに歩いたことがあっただろうか。

どんなに記憶をたぐり寄せても、こんなに長い時間屋外にいたことも
こんなに自分の脚を動かしたこともないかも知れない。


次第に昇る朝日に向かい、67号線沿いを歩いていた。

時々、立ち止まり後ろを振り返るも、人間はおろか動物すら通りはしない。


まるで世界に一人、取り残されたような気分。


「平和・・・だねえ。」


環境は違えど、イヤな記憶が蘇る。
そして気づく。

人、人、人に囲まれる生活の中でも感じていた孤独。
どこまで行っても、自分は孤独で、それは周りに何人の人間がいるかで決まるのではなく
だれか一人でも自分のことを思ってくれているかという単純かつ難しい計算であって

今の私にわかることは、どう計算してもまた、
自分は孤独になったということである。

ゾロが仲間になってくれると思っていた。
でも、どうしてだろう
フェニックスで見たゾロの姿を見たとき
私がゾロの仲間になってあげなきゃ、そう思った。

誰からも必要とされない、その生活を続けたくなかった。
そんな大それたことができなくても、せめて自分の足で立っていられる、自分の足で歩ける
人間になりたい、そう思った。

今のゾロに、クイナちゃんは救えない。
ロズウェルでだって、クロコダイルに縮み上がって

怖かったのに

助けてくれなかった。




すっかりと日がのぼり、寒さを感じなくなったと共に熱さが襲って来た。
寒暖の差にも程があるだろう、そう天候に怒鳴りたくなる程に。

その時、歩き出して初めての車が通った。

今まで進んで来た道のりを、距離を考えて
車とはなんと便利な文明の力なんだろうとぼんやりと考えた。

いや、ぼんやりと考えている場合ではない。

次に来る車には乗せてもらわないと!!

私は勢いよく腕を振り上げ、親指をビシっと立てた。


立ち止まり車を待つもやはり、車は来ない。

仕方なくまた歩き出したものの、じりじりと照りつける太陽にへたりこみたくなる。
時折吹く風の音の狭間、車の音を探しながらも遠くに見える山まで歩ききってしまう
気がした。


それからも、やっと通りかかる車にも無視され続け、それが当たり前のように思えて来た。
だけど、泣く気にはなれなかった。

歩くだけという行為が、少しずつ自分がマシな人間にしているように思えて来た。

自分を鼓舞する心の声がやかましくて、耳が遠くなっていたようで
私は数メートル先で車が停まったことにもしばらく気がつかなかったらしい。


赤いジーブのウィンドウから、若い男が一人こちらに大声で何か言っていた。

思わず駆け寄れば、なかなか爽やかなイケメンが「おーい!」
と叫んでいた。


「乗ってくか?」
「・・・いいの!?」
「そして一発やらせろ。」
「・・・は?」
「どうせアレだろ?売りながら歩いてんだろ、ねーちゃん。」
「そっ、そんなことしてないもん!!」
「ウソウソ!いいから乗れよ。」


軽快にそしてえげつないことをサラリと言うこんな男を信用できるものか。
私は無言でまた歩き出した。


ゆっくりと車で追いかけてくる男に腹がたった。


「わりいわりい、で幾ら?」
「だーかーらー!」
「金なら心配すんなって、結構持ってるぜオレ。」
「・・・150万ドル。」
「いやいや、ふざけ過ぎ。わかったよ、街まで乗せてってやるから、止まれよ。」
「結構です!」


それからもガミガミと声をかけられ続け、私はシカトを突き通した。


「まだ歩くのか?次の街まで50マイルだぞ。」
「・・・。」
「チッ。干物になるぜ、気をつけな。」


車が砂埃をあげて走り去ったかと思えば、私の足下には男が被っていた派手なテンガロンハットが
落ちていた。


「ムカつく・・・。」


正直な気持ちは口から出て行ったけど、すでに私の頭は
沸騰しそうなほど熱くて、ありがたくその男臭いハットは被らせてもらった。


ヒッチハイクしようにも、あんなのが捕まるならもうゴメンだ。
意を決し、また痛がる脚を動かして前に進んだ。

強すぎる日差し、人間の力ではどうすることも出来ない自然現象。


意識は朦朧としながら、また長い時間が流れる。
干物になる、それは本当だった。

身体だけじゃない、脳みそまで干物になってきたのかな。

なんか、テレビが見える。

[ 21/43 ]

[*prev] [next#]
[もくじ]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -