The Branch

変わらず満天の星空の下

冷えた空気が頬を撫で

微かに残るガソリンの匂いがやけに心を落ち着かせる・・・

サッチは目を丸くして、車が走り去ったであろう道を
眺めていた。
虫の声がときどき聞こえるだけの、その静寂は彼にまるで
異世界に放たれたような感覚をもたらし、そのたくましい腕にも脚にも
まったく力が入らなかった。

音を立ててサッチにつかみ掛かったゾロは怒りをむき出しに
唾を飛ばしてがなり立てた。

「どーなってんだよ、サッチ!!テメーの女だろうが、今、行ったヤツ!」
「・・・ああ。」
「ああ、じゃねーんだよ!いいからバイク出せ!追うぞ!」


涙目のサッチは力なくリーゼントを垂れ下げ、去って行った女の名を
呟くだけで、まるで人形の様にゆさゆさとゾロに揺さぶられるだけだった。

がっくりと落とされたサッチの肩の向こう側に、ゾロはフィオナの後ろ姿を見た。
この騒動の中、静かにその場を離れて行くように、フィオナの背中は少しずつ小さくなっていくようだった。



「フィオナ!!どこ行くんだ、お前はここで・・・」
「ゾロ、私・・・一人で行く。」
「行くって、どこ行くんだ。荷物はまだ車だし、それに!」
「1000ドルの荷物なんてもうどうでもいい・・・クイナちゃんは、私が助ける。」
「なにバカ言ってんだ!ここで待ってろ!」



この状況下、当然フィオナはここで待っていてくれると思っていた。
思いがけぬ彼女の行動は、ゾロの頭の中を掻き乱した。

振り返ることもなく、フィオナが闇に消えていくような気がした。

時々みる、夢を思い起こさせるかの様に。

脚が鉛のように重く、追っても追っても追いつかない
闇の向こうに
大切な誰かが行ってしまう夢。

まるでそれが現実の自分までをも惑わせるかのように、ゾロは思うように前に進めない。

優先させるべきはフィオナである、そんなことは分かっているのに。

日の落ちた大地を踏みしめ、冷たい風に肩をすくめ消えていくフィオナの名を呼べど
彼女には届かない。

動けないサッチ、動けない自分、それに比べ
何かを失いながらも前に進める、女の強さ、みたいなものをゾロは感じていた。





「テメーら堂々と食い逃げかこら、いい度胸してんじゃねえか。」


くわえ煙草の男が、ようやく動いたゾロの一歩をその脚で遮った。

前につんのめったゾロは、膝をつき男を見上げて言葉を失った。

ゾロを睨みつける男は積年の怨みを持つかの様にギリリとタバコを噛み締め
金を出せと目で訴えてくる。



「次から次へと・・・。」
「早く出せ。」
「・・・わーった。」


ため息と共に立ち上がると、
全てのことに諦めを付けるという選択が頭に浮かんだ。

150万ドル?もういいじゃねェか。
フィオナも、ジンベイも、

サッチもユキアも


「まいどぉ。・・・フっ。」

不機嫌そうなウェイターに金を投げ、心無しか力のないバイクのエンジン音に駆け寄る。

いつもならリーゼントの為に被らないヘルメットを付けているサッチの動揺は痛い程伝わってくる。
ゾロが後座に跨がると、小さなため息と共にバイクが揺れる。



「・・・ゾロ、あの子いいのか?」
「ああ、オレも車が必要だ。」

・・・またいつか別な方法ででも
クイナを治せるかも知れない

それにフィオナのことまで抱えきれないなら
いっそのことココで姿を消した方がマシだろ。


スタンドがガコンと音を立てて、エンジンが爆音と黒煙を吐き出す。


「サッチ、ちょっと待ってくれ!」
「ん、?ああ。」


ゾロは急にバイクを飛び降り、駆け出した。


「はぁ、お前・・・名前・・・もしかしてサンジ、」
「あぁ?オレはヨジだ。」
「・・・チッ。」


ゾロは背中を丸め、足下の小石を蹴り飛ばすとトボトボとバイクに乗り
サッチに「行け」と顎で合図した。



むさ苦しい男二人を乗せた、ハーレーが闇に消えていく。

テールランプが見えなくなるまで、金を握りしめたヨジという男は
丸まった眉尻を下げ、二人を見送った。


「なんだってんだ、あのマリモ頭・・・。」

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