Shipbuilding02

私はガレーラの宿舎は借りず、下町の狭いアパートで暮らしていた。

どうしてだろう、だれにも見つかりたくない。
そんな気持ちからだろうか。

とにかく、ドッグの準備ができるまでは
眠ろう・・・とはいえ2時間もせずに飛び起きるんだけど。

とくに綺麗にもされてないベッドに腰掛け、タバコに火をつける・・・。

外を行き交う人の声、雑音を聞いていないと落ち着かない。
特に今日は、あのモビーディックを再び見る事になったんだ。
戦場で聞いた声を鮮明に思い起こさせないようにするには、この下町はちょうど良かった。


どうやら隣の店でも、大声で怒鳴り合う人の声、ガンガンと壁に何かがぶつかるような音がする・・・。

いいぞいいぞ、そのまま私の意識をどこかに飛ばしてくれ・・・。


うとうととしてきた、タバコの火を消さなきゃ・・・。

隣の店はまだ大声と殴り合うような喧噪でわいている・・・。今日はちょっと眠れそう。

そう思い、目を閉じてしばらくすると
奇妙な風を感じた。

ゆっくり目を開けると、荒れ果てたとなりの店へと続く大穴が姿を現した。

わたしは身体を起こし、呆然とその先を見つめた。

あいつ・・・なんでここに。


「てっめー、何すんだよマルコぉ!」
「おまえの戯れ言につき合ってる暇はないよい、おれの意見に従えねえならおまえを船には乗せねえ!」
「親父が居ない今、おれたちが・・・」
「言うなっ!」

どうやら、マルコと言い争いをしていた男が、壁をつきやぶって今、私の部屋にいるらしい。


「あの・・・壁・・・。」

私がそういうと、部屋にいた男がこっちを向いた。

「おおすまねえな、あとでなおしとくよ。」
「いや、わたしが直すんでさっさと木材とセメント買ってきてもらっていいですか?」

光の落とされた私の部屋が暗かったのか、マルコは細い目を更に細めると、あっと驚いた顔をした。

「ガレーラの船大工じゃねーかよい。なんだい、おまえの部屋かよい・・・しけてんなあ。」

「はい。いいから、早く。」

「ん、よい!買ってこい。」

マルコは若い海賊を顎で使うと、大穴から私の部屋に踏み込んできた。

「おまえも、外に出て頭冷やして来い。」

ぶっとばした男の胸ぐらを掴むと、店の方に放り投げた。

そして、息をつくと大穴を眺めた。

「たばこくせえ部屋だねい。」

「失礼ですね、」

「おまえ、カレンとか言ったな。うちのクルーが申し訳ねえことした。」

「あんたでしょ。」

「おれのせいじゃ、ねえよい。」

しかめっ面をすると、マルコは私の部屋の床にドカッと座った。

「だからって、モビーの修理に手を抜くなよい。壁はちゃんとなおすから。」

「ふん、あんな船・・・。」

「あ?なんだよい。」

「いや、なんでもない。」

マルコは真っすぐに私を見つめると、ちょっと怖い顔をしていた。

「・・・眠れねえのかい。」

「え?」

「クマ・・・人のことは言えないが、真っ黒だよい、目の下。」

そう、私はこの一年、まともに眠れてない。全てはこの海賊たちとあの戦争のせい。

「寝ろ、ちゃんと修理してもらわなきゃ困るからねい。あいつらが帰ってくるまで、だれも入ってこないように見張ってるからよい。」
「あんたが部屋にいちゃあ、眠れないよ。」
「後ろ向いとくからよい、安心しな。」

くるりと私に背を向けると、マルコは穴の空いた店の方を向いた。

本当は憎くて、いますぐにでもその背中に剣でもつきさしてやりたいのに。
どうしてだろう、私はなんだかそのときはブランケットにくるまって眠っていたくなった。

マルコの背中を見つめながら、私も店の方を見つめながら、またうとうとして来た。

さっさと仕事を終わらせて、あのモビーを私の目の前から消さなきゃ・・・そう思いながらも。私はいつの間にか眠っていた。

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